4-5★

(俺だってさ、アンタに…)

 ――してやりたいのに、それもできないなんて。

 動けたならば、今すぐにも叶馬とおまに頬ずりしたい。キスして引き出して。叶馬にされているのと同じだけ、それ以上、叶馬を気持ちよくしてやりたい。

 口での行為はされるのはともかく、するのはどちらかといえば苦手だった。けれどたすくは、今はたまらなく叶馬のそこに口づけたかった。できないからこそ、よけいにそう望んでしまうのかもしれない。こんなことならば叶馬が求めた時に、もっと素直に応じてやればよかったと思う。

 叶馬のくるくる動く器用な舌は先の円い部分を包んで舐めまわし、いい子と頭を撫でるように佑を甘やかす。いつもならば、叶馬の舌技に夢中となって、溺れるようにもがく脚でシーツを乱すところだ。両腕で叶馬の頭をかき抱いて、もう解放へ導いてくれと、とっくに降参している頃だ。

(…けど、これって、どうなるんだ? このままイケない…ってこと、だよな…?)

 佑はふと不安にかられた。

 今の佑は、腰も動かせないどころか、本能に従い身を熱くすることすらできない。このままでは、欲望を吐き出して果てることもない。ただ感じとるだけの受動器官のみとなって、快楽に晒されつづけている。

 石にでもなったと、これは自己暗示をかけるべきだろうか。

(石だっ、俺は石だ、石っころだ)

 どんなに撫で弄られても、これっぽっちも感じない。石ならば痛くもかゆくもない。気持ちよがりもしない。

(…っ)

 不意に、叶馬が尖らせた舌先で、先端をつついた。

(あ、…出る)

 いやナニも出やしない。気持ち的にだ。

(…てか無理っ、俺は石じゃねぇしっ)

 発散できないまま、感覚のボルテージばかりが上昇していくのが恐ろしい。もうこれ以上はないと思えるほどの高みを極めているのに、そこから弾けて墜落することはない。叶馬が動きを止めてくれないかぎり、これが果てなくつづくのか。

 限界を超えて過ぎたる快感は、まるで拷問だった。

 もうやめてくれ、こんなのは、ただもう苦しい。

 苦しくて苦しくて、もう――…

(…………気持ちいいかも)

 けっこう、すごく、イイかもしれない。

 この感覚は、焦らされて焦らされてなお追いつめられた末の、果てる直前の快感だ。それが際限なくつづいている。

 完全に受動的な立場での体験は、そうそう味わえるものではない。緊縛趣味でもあるならば話は別だが、それとて心臓の鼓動までも縛りはしない。自己を放棄してただ翻弄される感覚は、甘やかされすべてをゆだねて、安らぐのにも似ていた。

 究極の快楽は、およそ死と同等とも感じられた。

 いいや、この世もあの世もない、何もかもを他者に明け渡した、これは胎児の境遇にもほど近いのかもしれない。

(悪く、ねぇかもだし。これも)

 これが最後の叶馬との交わりだと思えば、味わいつくしたいとの欲も出てくる。

 それに見ろ、この叶馬の図太さはどうだ?

 もし立場が逆だったとしたら、佑はここまで叶馬を愛しぬくことができるかどうか、自信がない。

(俺だって、やろうと思えば、できるよな――…?)

 相手は叶馬だ。愛しい恋人だ。身も心も許しあった仲だ。

 でも死体だ。

 …………。

(…悪ぃけど叶馬、俺、無理だわ)

 違う意味で硬くなっている恋人の腹の上に、跨る気骨など佑は持ちあわせてやしない。

(アンタ、やっぱすげぇって)

 ヘンな具合に佑は感心し、ある意味、叶馬を心から尊敬した。

 叶馬はきっと、佑が人間以外の動物でも、佑とあらば恋人にしてくれそうな勢いだ。それこそ迷いもなく●姦にすら及びそうだ。

 これが愛でなくてなんだろう。こいつは愛だ。佑は間違いなく叶馬に、愛されている。

 失ったものは多くあったが、大きなものも得た人生だった。なかなか悪くない。プラスマイナスゼロどころか、差し引きしてもお釣りがでそうだ。

(…俺、すげぇ幸せじゃん)

 快楽を越え、生死を越えて湧きあがるたまらない幸福を、佑は感じた。このまま昇天してしまうのではないかと――魂の話、思えるくらいに、今、幸せだ。

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