4-4★
双方の同意さえ得られるならば、たしかに愛に禁忌はないかもしれない、恋人同士ならばなおのこと。もとより、ふたりの付き合いに道徳観念を持ち出すのも今更だし。
しかし、しかしだ。人として、踏み入れてはならない領域はある。
こういうのをなんと言うのだったか。
(えぇっと、なんだ。じゅう…、じゃね。よん、いや、し、だ)
そうだ、これは死者への冒涜だ。
「佑、好きだよね、ここ」
(…っ)
不意打ちに、指先で小刻みに弾かれ、小さな乳首に爪をたてて摘みあげられる。
「舐めてあげる」
そして濡れた声で言うが早いか、叶馬は片方を乳輪ごと熱い舌の腹でねろりと舐めあげた。
(わ…、うわ、ぁ…)
これは、叶馬の言うとおりだ、佑は嫌いじゃない。
舌先は小さく大きく強弱をつけて、佑の乳首を弄りはじめる。もう一方も手を休めず、舌と連動した動きでつつき、くすぐられる。
(…俺、ヤバいかも)
こんなふうに刺激されてはたまらない。ジュウカンだかシカンだかの冒涜も、たやすく佑の頭(?)から吹き飛んでいく。
(叶馬、…あ、やめてくれ、俺、もう…っ)
こんなふうにいたずらに挑発しないでほしい、佑は応えることができないのだから。
「気持ちいいでしょ、佑」
(いい、イイっ、気持ちいいに決まってんじゃんっ。いいからもう…っ)
もういい、なんでもいい、どうでもいいから手と口を早く退けて、とっとと経帷子を着せてくれ。このさいバスタオルでも雑巾でもいい。被せてせめて視覚的にだけでも覆い隠せば、少しは叶馬の衝動も遠のくはずだ。男の情動のベクトルは、視覚に頼る部分が多いと聞く。
「こっちも、良くしてあげるね」
(……!?)
ぎしりと、聞きなれた音でベッドを軋ませて、叶馬は佑の上へ乗りあがってきた。窓からそそぐ外光がさえぎられるや、佑の視界は予想外の暗さに覆われた。佑の顔側へ脚をむけて跨ぐ格好で、叶馬が上に四つん這いとなっている。叶馬の股間がちょうど佑の鼻先に位置する、恥ずかしいことこの上ない極めつけの体勢だ。何をしようとしているかなど、問うだけ野暮というものか。
(――!)
下半身に熱い吐息を感じたと同時に、それよりさらに熱い口内へ、佑はつるりと呑みこまれた。
(うわっ、アンタ、いきなりそんなっ)
肌表面より熱く軟らかい粘膜に、佑はとろとろと包まれた。喉の手前の盛りあがった上顎に擦りつけながら、唇をすぼめて全体をしごかれる。ぶっ、ぶっ…と無粋な音を聞かせてもれる空気もろとも、叶馬は佑を舐めしゃぶりはじめた。
根元まで飲みこんで前後する叶馬の口は、勢いあまっての偶然を装って、後ろの柔らかい部分までも上唇で吸いあげる。表皮が唇の移動に巻きこまれて微妙な感覚を生む。くすぐったいような遠い刺激が、もどかしい。
時折やわく歯をたてて叶馬が甘噛みするのは、佑がそれを好きだと知られてしまっているからだ。蕩ける粘膜に包まれながら、不意打ちの歯の感触がたまらない。
こんな若いうちからこんな刺激に慣れてしまっては、女の子では満足できなくなるよと、夜毎叶馬は意地悪く囁いたものだ。
そんなことあるかと、はかばかしく反論できないのが佑はいつも悔しかった。いつだって太刀打ちできずに、叶馬の技巧をつくした舌にすべてを持っていかれた。
しかし今日は、肝心の佑自身が兆してくることはない。
心地ばかり快楽の天辺へ駆けあがりながら、肉体は取り残されたまま静寂の中に横たわり、微動だにしない。せめて喘いで、押し寄せる快楽の波を逃したいのに。普段ならば叶馬に聞かせまいと堪える恥ずかしい声は、空気さえ漏れ出ない。そしてこれほど丁寧に奉仕されながら、肝心な部分は一ミリたりと頭をもたげないのだ。
そりゃあそうだ。佑の身体の血液はすでに停滞し、冷たくかたまってしまった。セーブしようと努力する気持ちを裏切って、勝手に歓喜するいつもの佑とは、まるで逆のありさまだ。高まる心情に肉体が呼応することはもはやない。失くして初めて知るありがたみってやつか。この場合は親でなくムスコだが。
(それに、俺だって…)
佑の眼前には、叶馬の下腹が覆い被さっている。鼻先が股関の布地に触れそうなほど近い。ほんの少し顎を突きだすことが叶うなら、そこへキスだってできるのに。
叶馬は、ズボンの布ごしでもはっきりと判るほど盛りあがり、力強く形をかえていた。彼の欲望の証が佑のすぐ鼻先にある。窮屈な下衣の中で頭をもたげて、ひどく苦しそうだった。
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