2-3 BL進行中

  どれくらい経過したのだろう。

(…寝ちまった)

  たすくはふと覚醒――とはいえないかもしれないが――した。生きていないとなると、寝ていたも何もないものだけれど。

 叶馬とおまが立ち去ってから、いくらか時がたったと感じるものの。佑を取りまく状況は、何も変化がないようだった。

 機能(?)しているのは、やはり耳(?)だけのようだ。

 時折、遠く、ざわざわと何かが流れ落ちるような物音が聞こえてきた。

 耳元でふざけた寸劇を繰り広げた例の元医者と元看護師から、ここは運ばれた救急病院の処置室と勝手に判断していたが、そうではないのかもしれない。音の伝わり具合から推察すると、たぶん地下にあるさほど広くない一室だ。

(まさか霊安室…? 安置所とか)

 遺体の。

(…んじゃ、俺はこの先どうなるんだ?)

 身体の行方は予測がつく。当時は小学生だったとはいえ、すでに家族を弔った経験が佑にはある。

 佑の身体は、ひとまずの殺菌処理を施されるだろう。友引をはさむから葬儀は明後日になると、叶馬は電話で話していた。秋とはいえまだ日中はかなり暑い日がつづいている。きちんと対策を施さなければ、佑の身体は腐敗を免れない。

 処置を終えてのちは、一旦は自宅へ運ばれるだろう。叶馬のことだ、寺や葬儀会館を頼むとも思えない。きっと最後まで自らの手で弔ってくれるはずだ。

 そして棺に納められ、しめやかに葬式をあげるのだ。親しい人から顔も名前も知らない人まで、弔問客が訪れるだろう。佑の友達より、叶馬の関係者のほうが人数が多そうだ。

 どうということはない。今回ばかりは、頭ひとつさげられるわけでもなし、佑は高みの見物だ。叶馬が間違わずうまくやれるか、黙って聞き耳をたてて見守っておればよい――見えはしないが。

 葬儀後は、佑の葬送の隊列は粛々と、霊柩車へ棺を担ぎ入れるだろう。一路、向かうは街外れの火葬場だ。棺を降ろし阿弥陀経の一節も唱えられれば、いざ、この世との別れの時となる。炉に火が点されて――…。

 生き物は死してのちは骨なり灰なりとなって、土へと帰するのが自然の摂理だ。

 そのあとは? そこからあとは、どうなる?

(俺は? この俺はどうなんの――!?)

 生前となんらかわらず思考している、この自分は、まさか今のこのままなのか? 考えれば、佑は恐ろしくなってきた。

 まさかまさか。燃え盛る炎に包まれてもこのままなのか?

 位牌にお供えを置かれながら、ふわふわ虚空をさまようだけなのか?

 一周忌あたりで墓石の下へ収められても、ずっとこの状態で、土の中で考えつづけるのか!?

 やがてすっかり存在の痕跡が消えて、忘れ去られても、こうして漂って――…。

(ないないっ。冗談じゃねぇ、それ絶対ムリっ)

 どう考えても、佑には無理だ。無限の時間を耐え、ただ漂うなど性にあわない。そんな根性は持ち合わせていない。

(!)

 部屋のドアの開く音がした。叶馬の気配を感じる。

「…佑」

(叶馬…)

 ごく近くから叶馬の声が聞こえてきた。

 戻ってくれたのか。佑は待っていたのだ。叶馬にとても会いたかった。

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