第2話
次の朝、少し早く家を出て、蒼いコートの彼が落ちたあたりを探してみた。そこは、自転車置き場から少し植え込みの中へ入ったあたりで、ちょうど外灯もない、夜になると真っ暗になってしまう。その日は、管理人のおじいさんが、刈り込んだ植え込みの枝を纏めているところだった。
「あぁ?どうかしたかい」
「は?あ、えっと……」
まさか人がいると思っていなかった私は、咄嗟に返答に詰まってしまう。
「あぁ、落し物かい?今ここで拾ったんだけど……君のか?」
そう言っておじいさんが差し出したのは、紐のついた、小さな金細工だった。お土産屋さんで売ってそうな……でも、それよりはちゃんとしてる感じ。透し彫りで、不思議な模様が象られたそれを、おじいさんは私に握らせてくれた。
「いやぁ良かったねぇ。ちゃんと見つかって。これ、結構な品だろう?」
「へ、そ、そう?なんですか」
「そうだよぉ、まぁ、お嬢さんにはわからないかもしれないなぁ。これをやる職人は、もういなくなったらしいからねぇ」
「へ、へぇ……」
手の中でぴかぴかに光る金細工。確かに、こんなものがここに落ちてるなんて、普通じゃちょっとかんがえられなけど、これが彼のものだっていう証拠は何もない。だいたい、これが彼のものだったとして……どうすればいいんだろう。
「ん?まだ何かあるのかい」
ぼーっと手を見つめている私を、おじいさんが怪訝な顔で見ていた。
「あ、い、いえ。ありがとうございましたっ」
「あぁ、はい。遅れないうちにいってらっしゃい」
半ば逃げるように、私はそのばを離れた。結局、私はその金細工を持ったまま、学校へ行くことになってしまった。
休み時間に、ふと気になって金細工を眺めてみた。なんのモチーフなのかもわからない。ただ、とても精巧な細工だっていうことだけはわかる。これ、ほんとは結構高価なものなんじゃないだろうか。だとしたら、彼に返さないと。きっと困っているに違いない。もしかしたら、探しに来ているかもしれない。
でも……どうやって?
大体あれはなんだったんだろう。10階から飛び降りるなんて普通じゃない。もしかして、夢……?でも、じゃあ、これは一体何……?
ポケットの中で確かに光るそれは、間違いない形を保っている。くすんだ金色が、やけにリアル。彼のものだっていう証拠も根拠も何もないけれど、私には、これが彼の持ち物で、彼はいずれこれを取りに戻ってくる。そんな風に思えて仕方がなかった。
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