1-D 死神の目、人間の目➁

フフフ・・・今日も真昼間から3人の子供たちが来店だ。夏休みだからな。そして熱心にカードを物色中だ。言っておくが、フックにかかっている1番手前のカードをヒョイと外してレジに持ってくる子供など、少なくともこの近所にはいない。カードを買うという子供にとっての一大イベント。袋を触って擦って、子供によっては天井の蛍光灯に透かしてみる。もちろん袋の外からでは中身は分からないはずだが、選択に選択を重ねる。おっ、どうやら選択が完了したようだ。3人のガキんちょの1人がカードを手に取り、レジに・・・持って・・・・・・・・・・来ない?周囲に人がいないことを確認するとそのままリュックサックに入れて、3人とも店を出ていった。店のすぐ外で中身を開けて一喜一憂することもなくさっさと自転車でどこかへ消えてしまった。回りを確認し、棚の陰に隠れて上手くやったつもりだろう。しかし透視や千里眼をわけなくこなす死神の目に万引きは通用しない。

だのに、動けなかった。ただ黙って見送った。


 「店長、ちょっといいですか。」万引きを目撃して2日後、声をかけた。それは同一人物らによる再犯を目撃した日のこと。つまりあのガキども、1度ならず2度までもカードをパクったということだ。味をしめたのか。カードの収集ならばともかく、万引きの中毒になってはまずかろう。対応について相談すべく谷口店長に声をかけた。SCデータを確認していた谷口店長だったが、普段あまり相談を持ちかけない竹田が珍しく声をかけてきたぞという気持ちがあったのか、すぐに応対してくれた。

「顔は覚えています。次、店に来たらとっ捕まえていいですか?」

 谷口店長は一言二言の説明でおおよその事情を理解したようで、俺様としても助かる。一緒に防犯カメラの録画映像を確認してみたが、棚と2人の子供たちの陰に隠れてカードをリュックに入れた瞬間は映っていなかった。証拠はない。けれども顔は覚えている。少し絞り上げればすぐに吐くだろう。男手が必要だろう。それならば俺様に任せればいい。そんな思いで谷口店長に問うてみた。とっ捕まえていいか、と。だってそうだろう。人間界で万引きは犯罪。罪を犯したものは罪人で、それには男も女も、大人も子供も老人も関係ない。情状酌量は後々勝手にやってくれ。悪者は裁かれるべき。だから聞いてみた。しょっ引いていいかと。

 「ダ~メ◯」片目をつぶって超可愛く返答してきた谷口店長。さすがの俺様も耳を疑った。軽く炙ってやろうか。馬鹿なのかコイツはと思った瞬間、谷口店長の目つきが変わった。空間が凍てつき寒気が走った。バックルームの室温が2、30度下がったんじゃないのかと。何者だ、コイツは。

「まず、万引きは現行犯じゃないと捕まえられません。だから竹田さんの記憶だけを頼りに子供を問い詰めることはできません。」

「100パーセント間違いありません。それも2回。私が見ただけでも2回万引きしています。子供であれば現行犯どうこうまでは頭は回りません。自白すれば問題ないでしょう。」

「コラコラ、何をするつもりですか。」

「でも悪いのはあの子供達で―」

「だからといって竹田さんまで悪者になることはないでしょう。悪いのは万引きした子供たちだけで十分です。それに、もう盗られませんよ。顔がわかれば防げます。」

「ならばせめて盗んだ瞬間を捕まえさせて下さい。きっとまたやりますよ。それならば問題ないでしょう。あと、他のコンビニは売場に出すカードをサンプルにしているところもあります。そうすれば確かに万引きは防げます。それとカメラの位置をずらして死角を―」

「フフフ・・・よし。」

 ???ここで笑うか谷口よ。そして腕組みをして何かを決意したようだ。

「竹田さんは見かけによらず正義感が強いんですね。」何か嬉しそうな表情を浮かべている。

「いえ、そういうわけでは・・・」

 寄り目をする時のように眉間の前で人差し指を1本立てた谷口店長は、彼女なりの解決案を提示した。

「ひとつ。防犯カメラは捕まえる為ではなく、万引きを未然に防ぐ為にあります。それと、カードのお子さんたちが来たら私に教えて下さい。私が対応します。お願いできますか?」

 はい、と答えるしかないだろう。



 数日後、例の子供たちがやってきた。例のごとく3人で例のごとくカード売り場へ。性懲りもなく、と思いながら谷口店長に目をやると既に状況を把握していた。俺様が相手に気づかれぬよう呼びに行こうとすると、谷口店長は軽く片手を上げて合図した。腰の後ろで手を組み、リズムを刻むようにゆっくりとカード売場に向かっていった。万引き犯に対処する人間の表情がそこにはなく、どこか楽しげな雰囲気を醸し出していた。大丈夫なのか。俺様には遠目から行く末を見届けることしかできなかった。

 「ねぇねぇ、お姉さんにもカード教えて。」

 おいおい谷口さんよ、万引き防止には明るい声掛けが有効とマニュアルにはあったが、こういうことなのか。何か違う気がするぞ。いらっしゃいませとか、ありがとうございましたとか、元気のよい挨拶が万引きされにくい店舗作りに一役買うということだろう。結局のところ、熱心に子供の話に耳を傾けて、仲良くなって、バイバ~イ。子供3人は何も取らず、何も買わずに帰っていった。

 

 「毎回こうするわけにもいかないでしょう。」

「うん。そうだね。」

 今日は何事もなく終わった。しかしながら何の解決にもなっていないことを分かっているのか、谷口店長。



 次の動きは早かった。翌日、あろうことかまたあのガキが店に来た。昨日の分を狩りに来たのか。今度は俺様がとっても優しく声をかけてやろう、とも思ったのだが、どうやら様子がおかしい。表情が浮かない。それもそのはず、子供一人母親一人で来店なのだから。俺様よりも谷口店長の方が素早く正確に状況を掴んだようで、2人の客人をバックルームに通した。母親の手には菓子折り、子供の手には開けられたカードの袋が複数握られていたから間違いないだろう。

 その後のことはバックルーム内でのやりとりなので俺様にはわからない。レジが混んだので中の様子を伺うことはできなかった。別段興味もないしな。10分程で話は済んだようで子供はスタスタと、母親は自動扉付近で店内に一礼して出て行った。たまたまこういう解決がなされただけで、今回のは珍しいケースだということを谷口店長に伝えようかとも考えたが、辞めておいた。彼女自身も嬉しさや安堵というよりは、どことなく悲しげな表情をしていたから。



 それから7日後、子供3人組が来店した。今度はひとりひと袋ずつカードを買っていった。レジには谷口店長。何事もなかったように楽しく話をしている。結果、毎週顔を出すようになった子供3人。ほとんど金にならない常連客ができたということになる。俺様には単に手間暇が増えただけにしか見えないのだが、笑顔で話す4人。ちらっとこちらを見て、内緒話のようにひそひそ話をしている。俺様をネタにしているんじゃなかろうな。やれやれ・・・

 好きにすればいい。悪い気はしない。


                                             【1-D 死神の目、人間の目 終】

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