第28話モブなりの覚悟

「もういいよ」


足立さんの口から短く、そして俺が聞きたかったはずの声が聞こえた。


「えっといや」


言葉が上手く出ない、なんでだ?

俺は限界だと自覚してもう関わる事をやめると決めてそれを言うために


「もう限界なんでしょ?」


まるで心臓を掴まれた様な気がした

そんなにわかりやすかったか

いや、普通に見てれば分かるよな

そうだ、後は首を縦に振ればそれで俺は

このおかしな現象から解放されるんだ

だが何故か俺の首は言うことを聞かずに全く動こうとしない。

あれだけ心が折れて、絶望して、怖くなった

なのになんで!


「しょうがないよ、普通こんな事耐えられない」

「だからもう無理しなくていいよ」


足立さんは優しくそう言ってくれた

そうだ、そうだよ、その通りだ

後は俺が肯定すればいいんだ







「違うっ!!!!」





誰の声だ?


「確かに限界だった!!」

「もう無理だと思った!!」

「なのになんであんたにそれを言われなきゃいけない!!」


なにいってんだ

言ってること支離滅裂じゃん

しかも逆ギレかよ


「最初は確かに怖かった!!」

「でも、いざこんな場面に立ち合って

二人で謎を解こうと行動していくうちに」


うわ、恥ずかしい

もうめちゃくちゃじゃん


「まるで、まるで!」

「物語の主人公になったみたいで!!」


はぁ?なにいってんだ

お前はただのモブに背景に過ぎないだろ?


「こんな俺にも」


「普通で平凡な生活を送ってきた俺でも」


「何かの役にたてるんだって」


本当にうるさいなぁ

足立さんが困ってるじゃん


「嬉しくて!けど俺には物語の主人公みたいに強くなくて!!」


当たり前の事じゃん


「確かに怖くなったけど!!」


「俺は!」

「俺は!!」


いい加減黙れよ

つーか本当に誰だよ


「まだ役に立ちたい!!」

「この物語からまだ退場したくない!!」

「ただのモブで終わりたくない!!!!」


あーなんだ

俺か

俺の声じゃん

見ろよ足立さんがポカーンってしてら

えっ?

今までの全部俺の声?

なんでだ?

俺はもう駄目なはずで

それを伝えようとして

だったらなんでこんなことをいってんだよ


「もう限界かもしれないけど!」

「まだ大丈夫だから!」

「俺をこの物語から退場させないでくれ!」


ははっ

もう意味不明すぎるや

でもそうか俺ってこんな事言える奴だったんだな

知らなかったな

まだ怖くてしょうがないけど

不思議とさっきまでの様な気持ちではなかった

心が軽くなった様な気がした。


「うん、わかったよ」


足立さんは笑顔でこちらを見て


「これからもよろしくね」


その言葉が堪らなく嬉しかった。

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