7-4 諒のアドバイス

 —その日、マンションに戻った真智子は慎一に萌香のピアノ演奏動画を作成をすることになったことを慎一に告げた。


「……慎一のピアノ演奏動画も作成した方がいいって美紀先生が言ってたけど…」

「そのことだけど、この前の演奏会で弾いたラフマニノフの『ピアノ協奏曲第2番Op.18』についてはすでに動画で配信されてるし、今、練習している課題曲のリストの『超絶技巧練習曲』も学内で評価を受けるだけでなく、その後、動画で配信した方がより多くの人に聴いてもらえるって宮坂先生からも言われてるんだ。だけど、僕は機械のことはあまり詳しくなくて…」

「諒さんが詳しいみたいだから、今度、遊びに来た時にでも教えてもらったら?」

「音響効果を上げるのに機材を揃えるのかもしれないし、編集にはパソコンが必要だよね。宮坂先生や叔父さんにもよく聞いてみようと思う」

「私もあまり機械のことは詳しくないけど、これを機会にピアノ演奏動画の撮影や編集ができるようになるといいね。一緒に頑張ろうね」

「そうそう。僕も動画の撮影や編集の仕方を覚えて真智子のピアノ演奏動画もそのうち配信した方がいいと思う。この前の演奏会の動画もきっと撮影されてるはずだよ」

「手っ取り早いのではカメラや携帯で動画は撮れるよね。だけど、雑音が入ったりするといけないし、音響効果まで考えると撮影のための準備が必要なのかな」

「まあ、だけど、ここでも撮影はできると思う。とにかく真智子の卒業課題が優先だから焦らなくていいよ。萌香ちゃんのピアノ演奏動画の撮影のことだって、今はまだアルバイトなんだし、諒や他のスタッフに任せて、少しずつ覚えればいいと思うよ」


 —ふたりでそんな話をした数日後の週末に諒と萌香がマンションに遊びに来た。


「モカ、マチコせんせいのところにでんしゃでくるほうほう、もう、おぼえたよ」

「さすが、モカちゃん」

真智子は笑顔で相槌を打った。

「一人で遊びに来るのはまだまだ心配だけどね」

諒がぶっきら棒に呟いた。


「でも、モカ、もうすぐしょうがくせいだよ」

「そうだね。萌香が小学生になると、パパは忙しくなるから、宏樹伯父ちゃんに車で送り迎えしてもらうといいよ」

「あ、その頃には私もサクマピアノ教室のスタッフになるし、美紀先生から萌香ちゃんのお世話を頼まれているから、私が萌香ちゃんを連れて来てもいいし」

「そうだった。真智子さん、萌香のことを頼む。萌香はチョロチョロしていて危なっかしいから、真智子さんが専任になってくれるのはとても助かるよ」

「そうだね。マチコせんせいといっしょにあそびにくるのもいいね」

「そう、一人だとまだ心配だからね。怖い人に追いかけられたりしたら大変でしょ」

「うん。わかった」


「ところで、この前、美紀先生に萌香ちゃんの演奏動画の撮影や編集のことを頼まれたんだけど、私、機械にあまり慣れてなくて。諒さんはよく知ってるのよね」

「そのことなら、あまり難しく考えなくていいよ。機材は教室に揃っているし、部屋でもサロンでも撮影はできるから気楽に考えて。それに携帯でも撮影はできるのは知ってるよね。編集のことも宏樹やスタッフに教えてもらって少しずつ覚えればいいから。あ、そのうち慎一の演奏動画も撮影するといいよ。サロンでもここでもできるよ。それから、編集や配信するのにパソコンやi-Padを持ってると何かと便利だよね。もちろん、携帯でもできるけど」


「パソコンは一応、大学に入学したときに揃えたんだけど、留学した後、体調崩したからあまり使ってなくて。でも使えるようになっていた方がいいって宮坂先生にも言われたところなんだ。インターネット環境は一応、整っているよ」

それまで黙って話を聞いていた慎一が慌てたように言った。


「そうだ。今度のクリスマスコンサートの時にでも真智子さん、撮影の様子を見たり、編集の仕方も教わるといいよ」

「クリスマスコンサート、たのしみですね!」

萌香はここぞとばかりに叫んだ後、にっこりと微笑んだ。


 その日も萌香を中心にピアノを囲んでリラックスした一日が過ぎていった—。









  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る