7-3 素直な心

 真智子は萌香のピアノのレッスンを中心に美紀の仕事をサポートするという形で手伝いながら、サクマピアノ教室での仕事にも少しずつ関わる中で、萌香のピアノの演奏動画の撮影や編集もすることになった。


「……慎一さんのためにもピアノ演奏動画を撮影して、Youtubeなどで配信できるようになった方が今後のためにも役立つし、記録が残せるし、真智子さんにとっても今後のレッスンにも役立てると思うの」

美紀は今まで萌香の成長記録として撮影したピアノ演奏動画を流しながら言った。『ブルグミュラー25の練習曲』の「素直な心」を弾く萌香はとても楽しそうだ。


「萌香ちゃん、ホントに良い子ですよね」

真智子はしみじみとした口調で言った。


「今までは諒が家から大学に通っていたから良かったけど、今年の春からは大学の寮に入って、帰って来れる日だけ家に帰ってくることになっているからとても心配で… …。諒となかなか会えなくなると萌香はきっと寂しくてたまらなくなると思うの…。真智子さんも萌香の話し相手になってあげてくださいね。よろしくお願いします」


「はい。最近は諒さんと一緒にマンションにも遊びに来ているので、萌香ちゃんは私だけでなく、慎一ともすっかり仲良くなりましたよ」

「そう。それなら良かった」


「私も萌香ちゃんのお世話をしながら、ここで音楽の勉強を続けられたらって思っています」

「演奏動画の撮影や編集のことは諒がよく知ってるから今のうちによく教えてもらっておくといいわ。それから、甥の宏樹も動画撮影に詳しいし、他のスタッフからも色々なことを少しずつ教えてもらえばいいと思うけど、先ずは萌香と一緒にいる時間を大事にしてあげて頂戴ね。萌香は春から小学校に通い始めるんだけどそのこともいろいろと心配で…」


「萌香ちゃんならきっとすぐにお友達ができると思いますよ」

「そうだといいけど、あの子、ハーフで目立つから、小学校で嫌な思いをしないといいけれど…。まあ、心配してもきりがないんですけどね」


—そこまで話した時、スタッフの岡本美奈と一緒に買い物に出かけていた萌香が帰って来た。流れているピアノ曲は「アラベスク」から「牧歌」に移った。


「マチコせんせい、こんにちは!あっ、まえ、パパにさつえいしてもらったビデオだよね」

「そうね。これからは真智子さんにも撮影してもらいましょうね」

「わあ、マチコせんせいにもさつえいしてもらえるのね。モカ、これからもいっぱいれんしゅうします!」

「じゃあ、さっそく、真智子さんにレッスンをしてもらいましょうか」

そう言うと、美紀はピアノ動画を消した。


「はーい!きょうはまだあんぷしていないのでがくふをならべます。ハノンはたくさんれんしゅうするとゆびがうごくようになるんだよね」

萌香はピアノの譜面台に『ハノンピアノ教本』4番の楽譜を置き、椅子に座ると真智子に笑顔を向けた。


「マチコせんせい、きょうもよろしくおねがいします」

「はい。こちらこそよろしくお願いします」

真智子がピアノに向かう萌香の横に立つと、萌香はゆっくりと意気揚々とした様子でハノン4番を弾き始めた。







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