6-8 不思議な縁
アンサンブルの学外演奏会を終えた真智子は卒業の課題曲の集中し練習に励む一方で、佐久間美紀とも連絡を取り、卒業までは日曜日にサクマピアノ教室に通い萌香のピアノのレッスンに付き合ったり、ピアノ教室のスタッフの手伝いなど、できる範囲での簡単なアルバイトをすることになった。
夏休みが終わり、後期に入ってすぐに桐朋音大3年次への編入試験に絵梨が合格した知らせが入り、真智子と絵梨は喜びを分かち合った。その一方で絵梨は学外演奏会の後に幸人のことを両親に紹介したところだった。慎一の祖父母にあたる幸人の両親はすでに他界していたため、慎一の父にあたる兄の直人に絵梨のことを改めて紹介すると幸人からも話があったことを絵梨は嬉しそうに真智子に報告した。
「……それってつまり、絵梨と幸人さんは結婚前提でお付き合いするってことになるのかな?」
「うん、そういうことになるのかな。今度、一緒に指輪を買いに行こうって話になってるし」
「わぁ、もうそんなに話が進んだんだ!」
「両親が幸人さんのことを気に入ってね。それに幸人さんの方はもうとっくに社会人として仕事してるでしょ。だから、学費のことは両親と話し合うとしても私と一緒に暮らしても生活していけるわけだし」
「えーっ!?、絵梨と幸人さん、もう一緒に暮らすの?」
「まさか。まだこれから付き合うことが決まっただけ。私は編入試験に合格したばかりでまだ学生生活が続くし、家事とかいろいろ、ダメダメだからね。だけど、ずっと君のそばでピアノを聴いていたいって幸人さんが言ってくれて、きちんと婚約しようってことになったの」
「絵梨と幸人さんってまだ出会ってからそんなに経ってないけど、大丈夫?」
「そうだね。でも、幸人さん、大人だし、一緒にいると安心だし、これからゆっくりお互いのことわかっていければいいなって今は思ってる」
「だけど、それって絵梨が幸人さんと順調にゴールインしたら、絵梨は慎一の叔母さまになるってことだよね」
「そうなの。そのことがなんだかややこしいというか、私としてはしっくりしないんだけどね。でも真智子とアンサンブルを組むことになって、親しくなって、慎一さんや幸人さんとも知り合えて、こうして幸人さんともお付き合いもすることになったんだから、真智子にも慎一さんにもとっても感謝してる」
「私もなんだか不思議な気がするけど、おめでとうってことでいいのかな」
「慎一さんのお父さんへの挨拶はこれからだけどね」
「慎一のお父さまね……仕事中心な面があって少し気難しい面もある方だけど、根は優しい人かな。ご両親が事故で急死した後、病弱だった慎一のお母さまも慎一が中学生だった頃に亡くなって、きっと精神的に苦労されたんだと思うけど……いつ頃、挨拶に行くの?」
「幸人さんの仕事のこともあるし、私も一応、卒業に向けての課題があるから、もう少し落ち着いてからになるかな」
「卒業試験は12月だったよね。絵梨は編入試験も合格したし、卒業も大丈夫よ」
「お互い、頑張ろうね。真智子も卒業後は慎一さんと晴れて結婚するんだよね」
「うん。私たちもこの間、両親と話したところなんだけど、まだ実感が湧かないの」
「真智子たちはもう同棲してるからね。私と幸人さんは何もかもまだこれからかな。だけど、一緒にいてホッとできる人っていいなぁって会うたびに実感してる」
「絵梨がそう思えるなら、きっと気が合ってるんだね。幸せそうでいいなぁ。ごちそうさま」
「真智子たちこそ、いつでも仲が良いよね」
学外演奏会の後も真智子と絵梨はそんな話で盛り上がったりしながら、休憩時間やランチタイムにはよく一緒に行動し、それぞれ卒業に向けて、真智子はドビュッシーの『ノクターン』、クララ・シューマンの『バラードOp6-4』、グリーグの『ホルべルク組曲 』より『前奏曲 Op40-1』、シューベルトの『即興曲集 第3番 D 899 Op.90』、絵梨はロベルト・シューマンの『幻想小曲集』Op12のうち『5.夜に』、『6.寓話』、『7.夢のもつれ』、『8.歌の終わり』、と課題曲の練習に励み、桐朋短大での充実した日々が過ぎていった—。
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