6-7 家族での団欒

 一同はデパートの屋上の和食の食事処に入って、それぞれ昼食のセットメニューを注文した。真智子は実家の家族と食事をするのは実家を出て以来で4ヶ月ぶりだったし、慎一も実家に挨拶に行って以来のことだった。父、孝と母、良子そして弟の博を目の前にして、真智子も慎一もどこかそわそわとした新鮮な気持ちに包まれていた。


「真智子、今日は素晴らしい演奏だったよ。慎一君とも仲良く暮らしているようでお父さんは嬉しいよ」

孝はしみじみとした口調で言うと良子も後に続いた。

「ほんとうね。絵梨さんとの息も合ってたし堂々としていて、私の娘ながらとても素敵だった。それに久しぶりに真智子の演奏を聴けてドキドキしちゃった」

「ホント、久しぶりだったし、なんか難しそうな曲を弾いていたから、お兄さんのお陰か姉ちゃんもピアノの腕をあげたと思ったよ。それに一緒に弾いていた人も綺麗だったな。姉ちゃん、頑張って音大に進んで良かったな」

博も嬉しそうだった。


「お父さんもお母さんも博もありがとう。色々あったから、心配かけっぱなしだったかもしれないけど、絵梨や管弦楽メンバーのみんなのお陰で楽しく演奏できました。慎一とも仲良くやってるよね」

真智子は慎一に目配せすると、微笑んだ。

「もちろんだよ。それで、真智子さんが卒業したら、僕たち入籍しようと思っています。それから、結婚式や披露宴のこともふたりでよく話し合うつもりでいます。きちんとした日程が決まりましたら、お父さんやお母さん、博君にも改めて伝えますので、よろしくお願いします」


「ふたりとも忙しそうだけど、大学のことは大丈夫かな。学業優先で無理はしないように」

孝は慎一の申し出に慎重気味に答えた。

「学生の間は学費も生活費も父が援助してくれますし、真智子が卒業したら、籍を入れた方がお互いのためにいいと思うんです」

「それから、丁度いい機会だから伝えておくけど、私、卒業後の勤先もほぼ目処がたったところなの」

「あら、いつの間に。初耳ね、真智子。どんなお仕事?」

「つい先日、決まったばかりで伝えそびれていたけど、ピアノ教室のスタッフを引き受けたところなの。慎一さんがピアニストになるのをサポートしながら、ピアノの先生として働けたらいいなって思っていたところ、佐久間美紀さんって桐朋音大の理事の先生から偶然、お話をいただいたところなの」


「まあ、そうなの!良かったわね、真智子。家を出て慎一さんと暮らすようになってからまだ半年も経ってないのに素晴らしい舞台を見せてくれたり、勤先も決めたり、しっかり頑張ってるのね。お父さんもお母さんも安心したわ。いつの間にか大人になってるんだもの。まだ小さかった頃、一生懸命ピアノを弾き始めた頃の真智子のことが目に浮かんできてなんだか涙が出てくるわ。月日が経つのは早いって言うけどほんとうね。慎一さんのお陰ね。ほんとうにありがとう。真智子のこと、これからもよろしくお願いしますね」

良子は涙ぐみながらほろりとしたような表情を浮かべた。


—丁度その時、お料理が運ばれてきて、それぞれの前に並べられた。


「そうか、それは良かった。次は卒業式と結婚式だな。じゃあ、さっそく食事にしようか。いただきます」


しみじみとした表情を浮かべた後、孝が音頭を取るように手を合わせると、皆、それぞれ手を合わせ、食事を始めた—。


 食事中は終始和やかで、話も弾んだ。披露宴はパーティ形式にして、慎一と真智子のピアノ演奏を披露したいと思っていることなども話した。幸せそうなふたりの様子に孝も良子も満足していたし、ふたりが同棲することを許して良かったとホッと胸を撫で下ろしていた—。






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