6-6 ロビーでの会合
盛況の中で演奏会が終わり、聴衆は少しずつ会場の出口へと向かい始めた—。
まだ5歳の萌香が興奮気味ながらも疲れたのか少し眠たそうな様子だったことや、絵梨の編入試験が近いことを考えて、その日はまたの再会を約束してお開きに—。萌香を抱っこした諒を先頭に美紀、慎一、真智子、絵梨、幸人は出口へ向かう人の列に続いた。
会場からロビーに出ると、絵梨の方へと清楚なスーツ姿の一人の女性が駆け寄ってきた。
「絵梨、頑張ったわね。おめでとう!真智子さん、初めまして。絵梨の母です。真智子さんのことは絵梨からよく聞いてます。絵梨がお世話になりました。ふたりともほんとうに素晴らしい演奏だったわ」
「絵梨、大成功だったな。真智子さんもありがとう」
上品なスーツ姿のダンディな紳士が絵梨の後に続いて笑顔で挨拶した。
「お父さん、お母さん、ありがとう……」
嬉しそうな絵梨に続いて真智子も挨拶した。
「初めまして。高木真智子です。私の方こそ絵梨さんにはとてもお世話になりました。演奏会が成功して私も嬉しいです」
その時、真智子たちを見つけた真智子の両親も近づいてきた。
「真智子、演奏会、素晴らしかったわ。絵梨さん、初めまして。真智子がほんとうにお世話になりました」
真智子の母が深々と頭を下げるのに続いて真智子の父も頭を下げた。
「真智子のお父さん、お母さんも演奏を聴きにきてくださってありがとうございます。長井絵梨です。真智子さんにはほんとうにお世話になりました」
「せっかくお会いできたところなんですけど、絵梨は編入試験が控えていてすみません。絵梨、今日はもう帰りましょうね」
「はい」
「あ、じゃあ、私が帰りもお送りします。慎一、私はこれから絵梨さんたちを送ってくるからね」
幸人の申し出に両親は即座に便乗し、慎一と真智子に向かって手を振る幸人と絵梨の後に続いてロビーの外へと出て行った。
「あ、じゃあ、私たちも帰ろうか。慎一、また連絡するよ。真智子さんも都合がつく時にでも萌香と母に会いにきてくださいね」
萌香を抱いたまま慎一と真智子に目配せした後、諒は出口へ向かった。
「じゃあ、またそのうち」
佐久間美紀も軽く会釈すると、諒の後に続いた。
「慎一さん、今日は久しぶりに一緒に食事でもどうかしら?和食の美味しいお店を案内するわ」
「いいですね、お母さん、お父さんも。真智子、疲れてない?」
「ええ、大丈夫。久しぶりだし、嬉しいわ」
「えっと、僕も一緒にいいよね。お兄さん、久しぶりです!」
トイレに行っていた弟の博が突然、駆け寄って来て、ペコリと頭を下げた。
真智子の両親、高木孝、良子夫妻と慎一と真智子、博は連れ立ってロビーから外へ出た。冷房が効いた冷んやりとしたロビーとは一転して、外は夏の陽射しが眩しく肌を突き刺すように照りつけ、辺り一面、もわっとした空気に包まれていた。久しぶりに高木家の家族と一緒に歩きながら、慎一も真智子も俄かに緊張感に包まれていた。
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