6-5 演奏を聴きながら
—ちょうどその時、まどかが真智子のそばまで駆け寄ってきて、肩を軽くポンと叩いた。
「真智子、とても素晴らしい舞台だったよ。おめでとう!」
「まどか、来てくれたんだね。ありがとう」
感激したまどかは両手を広げて真智子をそっと抱き締めた。
「昔からの夢が叶ったね。これからも真智子のこと応援しているからね」
まどかが真智子の耳元で囁く傍から休憩時間が終わり次の演奏の始まりを告げるブザーが鳴ったので、まどかはそっと真智子から身体を離した。
「今日も友達と一緒に来てるんだ。じゃあ、また、そのうち連絡するね。慎一さんも絵梨さんも真智子のことこれからもよろしくお願いします!」
そう言って慎一と絵梨に軽く会釈をするとまどかは一緒に来た友人が座っている後ろの席の方へと忍び足で歩いていった。
やがて幕が上がり、ピアノ2台と管弦楽アンサンブルで、ホルストの組曲『惑星』より「木星」の澄み渡るような曲想が流れ始めた。真智子は演奏に耳を傾けながら演奏を終えた充実感に満たされていた。絵梨の方をそっと見ると絵梨も演奏に聴き入りながら満足した笑みを浮かべている—。
絵梨と一緒にアンサンブルを組めて、この舞台に立てたことは真智子にとってほんとうに大きな記念となったが、これからはこんな大きな舞台に立てる機会はきっとなかなか訪れないだろう。絵梨はこれからはますます活躍の場を広げて行くだろうし、こんな風にアンサンブルでパートナーを組むのもこれが最初で最後かもしれない。それでもどんな舞台でもいいからいつか私は私の舞台に立てるように努力を続けながら、絵梨や慎一のことを見守っていこう—。そして、これからは萌香ちゃんの先生になれるようにしっかり頑張らないと—。
そう真智子が心の中で思っている間に曲はヴィヴァルディの『四季』の春の訪れを小鳥の囀りが告げる有名なメロディが流れ始めていた—。胸に沁み入るような美しい演奏に聴衆は静かに聴き入っていた。
演奏が終わり、拍手喝采の中、幕が下りると萌香がポツリと言った。
「さっきのえんそうもとてもじょうずだったけど、マチコせんせいとエリさんのえんそうのほうがもっともっとよかったよね」
「そうかしら?」
真智子は萌香に微笑みかけた。
「そう!だってドキドキしたし……。また、いつかマチコせんせいとエリさんのえんそうききたいな」
「萌香ちゃんにそう言ってもらえると嬉しい」
「あっ、そうだ!このまえみたいにまた、おひろめかいをすればいいね」
「萌香が練習、頑張れば、またそのうちしてあげるわよ。今度は絵梨さんも一緒にどうかしら?」
美紀の提案に諒が割り込むように言った。
「もちろん先ずは私と慎一のクリスマスコンサートをお願いね!」
そんな話をしていると、次の演奏の始まりを告げるブザーが鳴り、幕が上がった。バレエ音楽のチャイコフスキー『くりみ割り人形 Op71a』もフランシス・プーランク『2台のピアノのための協奏曲ニ短調』もファンタジックで魅惑的な旋律が聴衆の心をそれぞれの物語の世界へと導き、楽しく、迫力のある素晴らしい演奏が感動的に繰り広げられ、拍手喝采の中で舞台は幕を閉じた—。
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