6-4 学外演奏会〜アンサンブル本番
—そして、舞台は2番目の幕が上がり、演奏が始まった。
「演奏も始まったし、そろそろ舞台袖の方に向かおうか」
リーダーの沖田慶太の指示に従い、真智子と絵梨、そして、竹田、岡田、井上、佐々木はそれぞれ自分の楽器を持って楽屋を出ると静かに歩き、舞台袖へと向かった。
舞台ではモーツアルトの『2台のピアノのための協奏曲K365』が流れている—。アンサンブルは2台のピアノと15人の管弦楽メンバーを纏める指揮者で構成されていた。その明朗で颯爽とした曲想に聴き入りながら、真智子も絵梨も緊張の思いが高鳴っていく—。やがて、舞台は2曲めのJ.S.バッハの『2台のピアノのための協奏曲BMV1060 第1楽章』へと移り、バロック調の躍動的なアレグロの旋律に舞台は包まれていった。
演奏が終わると盛大な拍手の中で幕が下り、5分休憩に入ると演奏者は入れ替わった。沖田、竹田、岡田、井上の管弦楽メンバーはそれぞれの配置に付き、チューニングを始めた。真智子と絵梨もグランドピアノの前に座り、次に演奏するドビュッシーの『牧神の午後への前奏曲』に気持ちを向けていた。真智子にとってこんな大きな舞台は初めてといっても過言ではなかったので、必ず成功しようと心の奥で新たに気を引き締めていた。
やがて、ブザーの音ともに幕が上がり、絵梨のリードでドビュッシーの『牧神の午後への前奏曲』のはじめのピアノの旋律が細やかに奏でられ、真智子が続き、ホルン、チェロ、ファゴットもまどろむような夢想的な旋律をそれぞれ緩やかに連ねていく—。詩的で美しく、どこか不思議で甘やかな旋律で繰り広げられたアンサンブルは終始、調和した風情で演奏を終えた。続いて、ロベルト・シューマン『アンダンテと変奏Op,46』は、ホルン、チェロ、ファゴットの前奏に連なるように真智子のピアノの旋律が奏でられ、絵梨が続き、主題旋律の変奏曲がときにはリズミックに、ときには激しく、ときにはロマンチックに繰り広げられ、2台のピアノを中心にしたアンサンブルの魅力を引き出しながら盛り上がり、終曲で回想的な余韻で終わり、盛大な拍手が鳴り響いた—。
—拍手喝采の中、真智子と絵梨は視線を合わせ、互いに微笑んだ。そして、ふたりが立ち上がると同時に管弦楽メンバーの竹田、岡田、井上、佐々木もそれぞれ立ち上がり、聴衆に向かって深々と挨拶をした。真智子も絵梨も慎一たちが座っている席の方へと目を向け微笑んだ。そして、拍手が鳴り響く中、舞台袖の方へと向かった—。
「今日の演奏会は大成功だね。ほんとうにお疲れ様でした!今日のところはこれでお開きだけど、打ち上げは夏休みが終わって、新学期になってから反省会をするので、その後にでも計画して連絡します!今日はありがとうございました!」
リーダーの仲田の一声に、皆が演奏会の成功に満足した表情を浮かべ、お疲れ様、ありがとうと言い合い、喜びを分かち合った。真智子と絵梨も感激の余り抱擁し、舞台の成功の余韻に浸った—。
一同はそのまま解散となり、真智子と絵梨も5分休憩で談笑している真部幸人、慎一、佐久間諒、萌香、美紀が座っている席へと向かった—。
「あっ、マチコせんせい、エリさん!」
こちらに向かって歩いてくる真智子と絵梨の姿を見つけた萌香はさっと立ち上がるとふたりの方へと駆け寄った。
「マチコせんせいもエリさんもなんだかむずかしそうなきょくをひいていたけど、とてもステキでした。モカもいろいろなきょくがひけるようになるといいな」
「たくさん練習すれば、萌香ちゃんもきっといろいろな曲が弾けるようになるわ。これから一緒に頑張りましょうね」
「そうよ。私も真智子と一緒にたくさん練習したわ」
「おばあちゃんもじょうずになるためにたくさんれんしゅうしましょうっていうの」
「そうよ。たくさん練習しないとね。萌香。真智子さん、絵梨さん、今日は大成功ね。素晴らしい演奏をありがとう」
真智子と絵梨と萌香が話しているところに美紀が割り込んできた。
「ほんとうにふたりとも素晴らしい舞台だったよ」
慎一がさりげなく真智子の隣りに並ぶと幸人も絵梨の隣りに並んだ。
「真智子さんも絵梨さんも素晴らしいアンサンブルで感動しました」
「そうそう、ドビュッシーは夢見心地で最高だったし、シューマンの変奏曲は迷路に入り込んでいくようだったし、ふたりともとても魅惑的で見とれちゃったよ。慎一のお陰でふたりに会えて、モカもワクワクしてるよ。ありがとう!」
そう言った矢先に不意に抱き付いてきた萌香を諒は抱き上げ笑顔を向けた—。
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