6-2 萌香との再会
―萌香はさっと真智子の方に駆け寄ると甘えるように縋り付いた。
「マチコせんせいにやっとあえた」
「ほんとだね。やっと会えたね。今日も演奏会でピアノを弾くの。頑張るからあとで感想を聞かせてね」
「うん」
萌香は目を輝かせて頷いた後、慎一の方を見た。
「シンイチさんは?シンイチさんもピアノ、ひくの?」
「僕は今日は一緒に演奏を聴くけど、ピアノは弾かないよ」
「じゃあ、パパやおばあちゃんといっしょだね。えっと、えっと、それで……」
萌香は真智子と慎一の隣にいる絵梨と幸人の方をじっと見た。
—その時、萌香の後から慎一と一緒に来た佐久間諒と佐久間美紀が真智子に笑顔を向けて会釈した。
「真智子さん、いよいよ今日は演奏会ね。萌香と一緒に楽しみにしていたのよ。頑張ってね」
美紀は嬉しそうに微笑んだ。
「今日はわざわざ演奏会に来てくださってありがとうございます」
真智子が諒と美紀に向かって丁重にお辞儀すると、美紀は絵梨の方を見た。
「えっとそれで、こちらはもしかして、真智子さんと連弾する方かしら?」
「はい。長井絵梨といいます。今日はありがとうございます」
絵梨は緊張気味に美紀と諒に向かってお辞儀した。
「それで、こちらは……?」
美紀は幸人の方を見た。
「私は真部慎一の叔父の真部幸人です」
「まあ、叔父さまですか!?ご挨拶が遅れました。私は先日の演奏会で真部慎一さんと親しくなりました佐久間諒の母の佐久間美紀です。慎一さん、演奏会の後、音楽教室を真智子さんと一緒に訪ねてくださって、孫の萌香もお世話になりまして、今日は演奏会に伺いました。よろしくおねがいします」
「えっと、私が佐久間諒です。今後ともよろしくお願いします!」
「わたしがモカです!よろしくおねがいします!」
美紀に続いて、諒も萌香もお辞儀した。
「こんにちは。萌香ちゃん、佐久間諒さん。今日はありがとうございます」
絵梨は幾分はにかんだ様子で微笑んだ。
「真智子さんから聞いているかもしれないけど、私は桐朋音大出身ですし、アンサンブル演奏会については萌香と一緒にとても楽しみにしていました」
美紀は改まった様子で真智子と絵梨に向かって話し続けた。
「はい。私は小学校の頃から桐朋なので。今は短大にいますが、今度、大学の編入試験を受ける予定です」
「それなら、今日は成功させないと。3番目のドビュッシーの『牧神の午後への前奏曲』とシューマンの『アンダンテと変奏Op,46』よね。繊細な曲ですから、気持ちをしっかりと持ってね」
「えっ、絵梨さんは小学校から桐朋!?じゃあ、もしかして、その頃から私のこと知ってる?」
諒が話に割り込むように叫んだ。
「はい。学校中で有名でしたし、知ってました。でもその頃は私は小学1年生でしたし、佐久間先輩は6年生でしたから……」
「佐久間先輩か……懐かしい呼び方だな。じゃあ、学校が一緒だったのはその時だけだね。高卒後はドイツへ留学したから」
「そのことも噂になってましたから」
「今は筑波大のオケに所属しているんだ」
「そうみたいですね」
「じゃあ、真智子さんも絵梨さんも今日のアンサンブル、頑張って」
諒はそう言うと、慎一の隣に並んだ。
「絵梨さん、大先輩に聴いてもらうなんてドキドキするんじゃない?」
緊張気味の絵梨の気持ちを解きほぐすように幸人が言った。
「ええ、…とにかく本番はやっぱりドキドキします」
「絵梨なら大丈夫だよ。一緒に頑張ろうね」
真智子はそっと絵梨の手を握った。
「わー、マチコせんせいとエリさん、なかよしですね」
真智子に縋りついたままふたりの様子を見ていた萌香がニコッと笑った。
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