5-5 ランチタイム
「慎一も真智子さんも今日はありがとう」
マグロに箸を伸ばしながら、諒が改まったように言うと萌香も続いて叫んだ。
「ありがとう!」
「モカはオウムみたいだな」
「オウム?」
「そう、鳥のオウム」
「そうかな?モカ、おそらはとべないよ。とりさんみたいにおそらがとべたら、おともだちにあえるかな?」
「今日はパパがお友達を連れてきただろ」
「そうだね。モカ、パパがかえってきてくれてあんしんした!」
——その時、諒と萌香のあどけない会話に耳を傾けていた美紀が何か思い出したように真智子に話しかけてきた。
「あの、突然だけど、真智子さんにお話があるんだけどいいかしら?」
「ええ、何か……」
「真智子さんは今、桐朋短大に通っていらっしゃるってさっきおっしゃってましたが、短大卒業後は桐朋大学に編入されるの?」
「いえ、編入は考えてなくて、ピアノの先生とか音楽に関わる仕事に就けたらって思っています。八月の演奏会が終わったら、無理のない範囲でアルバイト先でも探してみようかなと考えていました」
「それなら、ここのピアノ教室のスタッフとしてそのうちアルバイトをしてみない?ちょうどもうすぐ欠員が出るし、萌香が来年から小学校に入学するという大事な時期に諒も医学部が忙しくなるから寮に入ることが決まっていて、スタッフを募集しようと思っていたところなの。後でピアノ教室やピアノサロンも案内するわね」
真智子は突然の話に内心、ビックリしたが、さっと気持ちを落ち着けると嬉しそうに返事をした。
「私でいいなら、伝手がある方が心強いですし、私にとっては降って湧いたようなチャンスなので前向きに考えさせていただきます」
「では、了承してくださったと考えていいかしら?」
「家から近いですし、桐朋大学出身の大先輩のお手伝いができるなら嬉しいです」
「それなら良かった。後でピアノサロンで真智子さんのピアノの腕前を聴かせてもらうのが楽しみだわ」
「真智子、良かったね」
美紀と真智子の話に黙って耳を傾けていた慎一が真智子に向かって微笑んだ。
「真智子さん、うちのスタッフになるの?」
諒も突然、話に割り込んできた。
「ええ、良いお話みたいだし、これから大学の就職課に相談してアルバイト先を探すより確実でしょ。それに萌香ちゃんのお友達になれるね」
真智子は諒と萌香に向かって微笑んだ。
「たかぎまちこさん、モカのおともだちなの?」
「萌香ちゃんがお友達にしてくれるなら」
「もちろん、いいですよ」
「じゃあ、僕もお友達にしてくれる?」
「いいですよ。ピアノのおひろめかいももうすぐするんでしょ。マチコさん、なにをひくかきめましたか?」
「それは後でのお楽しみ」
「そう、おたのしみ!」
「あっ、やっぱり、萌香はオウムだな」
「そう、モカはオウムだよ!おともだちにあえたもん!」
—すっかりはしゃいでいる萌香の笑顔を見ながら、美紀がぽつりと呟いた。
「萌香は幼稚園に通っていないから、少し変わっていてね」
「えっ?とても無邪気なお嬢さんですよね」
「もちろん、良い子ですけど……」
美紀は言葉を濁しながらも目を細めて萌香の嬉しそうな様子を見つめていた。慎一と真智子も萌香と諒と美紀とのランチタイムにいつの間にかすっかり馴染んでいた。
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