5-4 諒の家族との団欒
「ところで、ご一緒の方は……、えっとお名前は何て言ったかしら?」
美紀は慎一の隣に座っている真智子をじっと見ながら言った。
「はい、彼女は僕のフィアンセの高木真智子です」
突然、真智子に向けられた美紀の視線に少し慌てたように慎一が質問に答えた。
「フィアンセって……、婚約されていらっしゃるの?」
「はい」
「まあ、いいわね。真智子さんも音大ご出身かしら?」
「はい、桐朋短大に在籍しています」
それまで黙っていた真智子も緊張気味に答えた。
「あら、桐朋短大の方だったのね。私は桐朋大学出身よ。じゃあ、食後にサロンでそれぞれ、ピアノ曲のお披露目会でもしましょうか」
「えっ!ピアノのおひろめかい!?わたしもひくの!?」
突然、萌香が興奮したように叫んだ。
「そうね。萌香ちゃんは一番最初ね。今、練習しているメヌエットを聞かせてちょうだい」
「はーい!」
「萌香ちゃんのメヌエット、楽しみね」
真智子が萌香に話しかけると萌香はうきうきとした表情で言った。
「えっと、タカギマチコさんはなにをひくの?」
「そうねえ……今は内緒にしておこうかな」
「えーっ、ずるい!モカはメヌエットをちゃんとひくよ!じゃあ、パパは?」
「パパはそうだな、シューマンの『夕べに』を弾こうかな」
「じゃあ、おばあちゃんは?」
「そうねえ……おばあちゃんも今は内緒にしておこうかしら」
「おばあちゃんもずるいね!じゃあ、えっと、えっと……おにいさんのなまえなんだったっけ?」
「あ、僕?真部慎一です」
「そう、マナベシンイチさんはなにをひきますか?」
「僕はじゃあ、リストの『愛の夢』を弾きます」
「タカギマチコさんとおばあちゃんもちゃんときめておくこと!」
「はいはい。じゃあ、そろそろ食事にしましょうか。こちらへどうぞ」
美紀が立ち上がり応接間から廊下に出たので、慎一と真智子が美紀の後に続き、その後を見守るように諒と萌香が続いた。
応接間のすぐ隣りのダイニングルームには10人ぐらいで食事ができそうな大きなダイニングテーブルが設置されていて、中央ににぎり寿司セットが置いてあった。
「わーい!おすしだ!」
萌香は嬉しくてたまらないといった様子で席に着いた。
「急だったから、出前を頼んで届けてもらったんだけど、お寿司は好き?」
「お寿司は好物です。お気遣い、ありがとうございます!」
美紀の問いかけに慎一はちょっとかしこまった様子で頭を下げた。真智子も慎一に続いて頭を下げた。
「じゃあ、席に着いていただきましょうか!」
諒が慎一と真智子を食事に促すように言ったので、慎一と真智子は隣り合わせで席に着き、すでに席に着いていた萌香を間にしてその向かいに諒と美紀が席に着いた。
「では、早速、いただきます!」
「いただきます!」
諒に続いて萌香が手を合わせた。
「萌香の分はパパが取ってあげるね」
そう言うと、諒は手慣れた感じで萌香の取り皿にいくらとサーモンとエビとマグロと卵焼きを入れて、萌香に渡した。
「慎一さんと真智子さんもどうぞ」
「ではお言葉に甘えていただきます」
「いただきます」
美紀もふたりを促し、慎一と真智子も手を合わせると取り皿を手に取り箸を伸ばし、皆が銘々に食事を始めた。
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