5-3 諒の家族と対面
諒が玄関のチャイムを鳴らしてしばらくすると、諒の娘、萌香が玄関のドアを開けて飛び出し諒に抱きついてきた。
「パパ、おかえりなさい!」
「ただいま、
「こんにちは。わたしはサクマモカといいます。パパがおせわになりまして、ありがとうございます」
そう言うと、萌香は慎一と真智子に向かって深々と頭を下げた。
「こちらこそ、初めまして。萌香ちゃん」
慎一が萌香に向かって微笑みかけたのに続いて真智子も萌香に微笑みかけた。
「初めまして、萌香ちゃん、よろしくお願いします」
「じゃあ、みんなこっちに来て!」
萌香は諒の手をぎゅっと握った。
慎一と真智子は玄関を上がると萌香と諒の後に従い玄関からすぐの洋風でモダンな雰囲気の応接間に案内された。諒はゆったりとした皮のソファーに座ると、慎一と真智子に向かい側のソファーに座るよう促したので、ふたりは並んで腰掛けた。
「じゃあ、おばあちゃんをつれてくるからまっててね」
そう言うと萌香は応接間から出てゆっくりとドアを閉めた。
応接間はすでに冷房が効いていてちょうどいい空調に整えられていた。広い庭が見渡せる大きな窓から夏の陽射しが降り注いでいる—。
それほど待たずに萌香が見た目はまだ五十代ぐらいのキリッとした雰囲気の女性を連れて部屋に入ってきた。
「こんにちは、諒の母の佐久間美紀です。今日は暑い中、わざわざお越しくださってありがとうございます。ゆっくりしていってくださいね」
佐久間美紀は深々とお辞儀をすると、慎一の方をじっと見つめた。
「あなたが真部慎一さんね。昨日の演奏は素晴らしかったわ。今回の企画が立ち上がった時に宮坂勉先生からブタベストのリスト音楽院から帰ってきた優秀な学生がいるからってご紹介があったのよ。芸大の学生さんよね」
「こちらこそ、とても有意義な機会をありがとうございました。帰国後初めての演奏会だったので緊張しましたが、とても楽しく充実したひとときでした。それに、T管弦楽団の方々や他の奏者の方々ともご一緒できて嬉しかったです。諒さんともこうして友人として親しくなれましたし、ほんとうに良い機会でした」
—慎一が話している間、美紀は持ってきたお茶をテーブルに並べていた。
「それなら良かったわ。慎一さんは将来、有望ね。ところで、昨夜は諒がお世話になったみたいで、ご迷惑じゃなかったかしら?」
「諒さんとは意気投合して」
「そうそう。慎一と私は意気投合して、今度、連弾を組もうって話になったんだ。それで、母さんにも是非紹介しておこうって思って今日は連れてきたんだよ」
「まあ、それはいい話ね。諒も来年は忙しくなるし、年内にサロンで実現できるんじゃない?クリスマスコンサートなんてどうかしら?」
「流石、母さん、話が早いね」
「クリスマスコンサート、パパ、するの!?」
諒に抱っこした萌香が嬉しそうに声を上げた。
「そうだな。上手くいったらね」
「わぁ、モカ、たのしみ!」
無邪気に笑う萌香をじっと見つめる美紀のまなざしは祖母というより母のようでもあった。
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