5章 新たな友人がもたらす大きな変化
5-1 電話ごしの無邪気な声
「もしもし、どなたですか?」
可愛らしい無邪気な声でまだ幼な子の諒の娘、萌香がすぐに電話に出たので、諒も続いて話し始めた。
「萌香、おはよう」
「パパ、きのうはなんでかえってこなかったの?モカ、ずっとまってたんだよ」
「ごめん、ごめん。パパのお友達のところに泊まったんだ」
「えーっ、またぁ」
「ほんとうは帰るつもりだったんだけどね、ところで、おばあちゃん、いる?」
「いるよ。いま、おかたづけしてる」
「じゃあ、ちょっと呼んでくれる?」
「うん。ちょっとまってね。おばあちゃーん!」
萌香はキッチンの片付けをしていた諒の母、
「パパからだよ」
諒の母は電話に出ると少し呆れたトーンで話し始めた。
「諒!昨日は遅くなるってことはわかっていたけど、一体、今、どこにいるの?」
「母さん、ごめん!ちょっと飲み過ぎて、友人の家に泊まったんだ」
「友人って一体……昨日の演奏会の出演者の方々のどなたかの家に泊まったってことでしょう?……突然、失礼だったんじゃないの?」
「とにかく、それで、昨日、友人になった真部慎一の家にいるんだけど……、えっと、わかるよね?昨日、母さんも注目していたトリを務めたピアノ奏者の真部慎一だよ」
「ええ、昨日のことだもの、よく憶えているわ。まあ、そうだったの。仲良くなれたのなら良かったわね」
「それで、急なことだけど、今日、今からそっちに連れて行って慎一のことを紹介したいと思ってるんだけど、慎一の彼女の真智子さんも一緒にね。いいよね?」
「ええ、いいけど。諒ったらまた何かを企んでるでしょ?」
「流石、母さん、察しが早いね。慎一と私の連弾で演奏会の企画を組めないかなと思って」
「ええ、そういうことならわかったわ。そのうちね。考えておくから連れていらっしゃい!」
「じゃあ、もう少しだけここで寛いでお昼頃にはそっちに行くから、ランチをよろしく!じゃあ、またあとで!」
諒は電話を切ると慎一と真智子の方を向いて言った。
「いいってさ」
「それは良かった。じゃあ、準備しないと」
慎一はどこか緊張するのか、そわそわしたような真面目くさった様子で言った。
「準備ってほどのこともないよ。慎一が母の前でピアノの弾いてくれたらいいだけさ。家にはピアノサロン風のイベントスタジオがあって、そこにグランドピアノが二台置いてあるんだ。音大生なら母と仲良くなっておいて損はないよ」
「わあ、それは凄いわね。私も一緒でいいの?」
「もちろん。真智子さんだって音大通ってるんでしょう?それに萌香がきっと喜ぶから、遊んであげてよ」
「ええ、もちろん」
突然、舞い込んできた話に真智子もなんとなくウキウキした気分になった。
その後、諒は携帯に保存してある娘の萌香や母の佐久間美香の写真を見せながら、一頻り雑談に花を咲かせた。写真の中の萌香は透き通るような白い肌に金髪が美しく、物語の世界から抜け出したきた妖精のような可愛らしい女の子だった。諒の母も柔和で優しそうな表情で一緒に映っている。一見、見た所幸せそうな家族の写真だが、母親がいないということを娘の萌香はそろそろ気になり始める年頃かもしれない。萌香の母親も日本に慣れなかったとはいえ、どうしてこんなに可愛い娘を置いて、ドイツに帰ってしまったのだろう—。
慎一と真智子に写真を見せる諒の表情が生き生きとしているだけになんとも言えない複雑な気持ちに包まれながら、真智子は諒の雑談に相槌を打っている慎一をそっと見つめた。
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