4-7 金髪の青年

 慎一が浴室に入った後、真智子はソファーですやすやと寝息を立てている金髪の青年、佐久間諒をまじまじと見た。彫りが深く美しい顔立ちには美術デッサンで使う石膏像のような神々しさが宿っているように見えた。


—金髪だしハーフだと一目でわかるけど、日本とどこの国のハーフだろう?年はいくつだろう?たぶん、私たちよりは年上だと思うけど、ほんとうに綺麗な顔立ち—。


 真智子がじっとその顔に見入っていたその時—。


「モカ、わかったから!」


すやすやと寝息を立てていた佐久間諒が突然怒ったような声を出して、寝返りを打った。


—あ、寝言、言ってる。モカって身近な人かしら?よく寝てるから今日はこのまま泊まってもらうことになるんだろうな。だけど、目が覚めたらビックリしないかな—。


真智子はそう思いながら、あまり長く見入っているのも気恥ずかしいような気がして立ち上がり、ダイニングテーブルに座ると手持ち無沙汰な気分で慎一が浴室から出てくるのを待った。ほどなくして寝間着に着替えて浴室から出てきた慎一に向かって真智子は言った。


「今夜、佐久間さん、泊まるんだよね」

「うん。突然で悪いけど、いいよね」

「ぐっすり眠ってるからね…。さっき寝言、言ってたよ」

「そっか。起きた時のために僕は隣りで寝るから、真智子はベッドで寝て」

「隣りで寝るっていっても…」

「クッションがあるし、毛布にくるまって寝るから大丈夫だよ。そこのクローゼットに冬用の毛布が予備にあるはず。諒が起きた時、周りに誰もいなくてビックリするといけないから、いつものように真智子と一緒にベッドで寝るって訳にもいかないよね」

「まあ、確かに。じゃあ、今夜は私一人でベッドに寝るね」

真智子はクローゼットから毛布を取り出すと慎一に手渡した。


「じゃあ、私もお風呂に入ってくるね」

寝間着の準備をすると真智子は風呂場に向かった。

「ゆっくり入ってね。今日は疲れたから先に寝てるかも」

慎一はソファーの横で毛布に包まるとクッションに頭を凭せかけると目を瞑った。


 真智子が着替えて浴室から出るとふたりともすやすやと寝息をたてて眠っていた。今日の演奏会の舞台で活躍した奏者のふたりがこうして隣り合わせで眠っている光景を目の前にしていることがどこか神々しいような不思議な気持ちに包まれて真智子はふたりを見守るようにしばらくじっと佇んだ。


—明日の朝は大変な朝になりそう—


そう思いながら、ふたりを起こさないよう抜足差足ぬきあしさしあしで足音を忍ばせながら真智子は寝室に入り、静かにベッドに身体を横たえると眠りについた。


 真智子が物音に気付いて目を覚ますとリビングからふたりが話す声が聞こえたので飛び起きると慎一が寝室に入ってきた。


「おはよう、真智子。さっき、諒が起きたから」

「おはよう、慎一。よく眠れた?着替えたらすぐに朝ごはん、準備するね」

—時計を見ると6時半を過ぎたところだった。

「よろしく」

慎一も急いで洋服に着替え、ふたり一緒にリビングに入った。







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