4-6 帰ってきた慎一
ピアノを弾き終えた真智子はふと慎一から連絡が届いているかどうかが再び気になった。時計の針は10時半近くを示している—。真智子が携帯を確認すると案の定、慎一からのメッセージが届いていた。
—もうすぐ帰る。友人を一人連れて帰るけど、よろしく—。
—えっ!?こんな時間に—?
一瞬、胸がそわそわした真智子だったが、気を取り直して部屋の中を見渡した。キッチンの流しには食器や鍋がまだ洗ってないまま置いてあったのに気づいて、真智子は慌てて洗って食器棚に片付けた。その後、さっき、プログラムを見直した時に棚から出した楽譜が少し散らばっていたので元の場所に戻した丁度その時、チャイムが鳴った。真智子が急いで玄関を開けると金髪の青年を背中に負ぶった慎一がいた。
「慎一、お帰りなさい。お友達、ぐっすり眠っているみたいだけど—」
「ああ、二次会に付き合って話しているうちに眠っちゃってね。そのまま放置するのも悪い気がして仕方ないから連れてきた。ごめんね」
慎一はそう言いながら、負ぶっていた青年をそっとソファーに横たわらせた。
「いいけど、その人、酔っ払ってるみたいね。慎一はまさか飲んでないよね」
そう言いながら真智子は咄嗟に寝室のベッドに掛かっていた綿毛布を持ってくると、慎一がソファーに横たえた青年にそっと掛けた。
「もちろん、飲んでないよ。ずっと
「えっと、シューマンのピアノ協奏曲を演奏していた佐久間諒さんよね」
「そう。真智子、覚えてたんだ」
「金髪が目立っていたし、さっき、慎一を待ってる間にプログラムの曲目と奏者を確認し直したの。あっ、もちろん、演奏も素晴らしかったけどね。っていうか、今日の演奏会は6曲全てとても素晴らしかったね。もちろん、慎一のラフマニノフが私にとっては最高だったけどね。ほんとうにおめでとう!」
「ありがとう。今日もふたりでお祝いできればよかったんだけど、もう、こんな時間だ。待たせてごめんね」
そう言うと、慎一は真智子をそっと抱き寄せた。
「待たせたなんてことないよ。今もこうしていられるんだし。演奏会での慎一、ホント、かっこよかったよ」
真智子は慎一の肩に顔を
「ところで真智子、明日の予定は特に何も入ってないよね?」
真智子の髪を撫でながら、慎一が呟いた。
「携帯にも連絡はなかったし、アンサンブルの練習は明日は入ってなかったはずだけど。念のためスケジュール表を確認するね」
そっと慎一から離れると真智子は自分用の棚に張ったスケジュール表を確認した。その間、慎一はソファーで眠っている金髪の青年、佐久間諒の様子をじっと見守っていた。
「もうすぐ私も演奏会だから夏休み中でも練習は入ってるけど明日は大丈夫だよ」
「そう。よかった。今日、諒を連れてきたから、もしかすると明日はバタバタするかもしれないって思ってね。僕は演奏会が終わったばかりだから、しばらくゆっくりできるけどね」
「それにしてもよく眠ってるわね」
「うん。…きっと疲れが溜まっていたんじゃないかな。なんだか僕のことを気に入ったらしくずっと一緒だったんだけど」
「慎一って昔からそういうところあるよね。ほら、修司とも今でも仲が良いし」
「でも芸大では一年の時、留学していた影響もあるせいか、今のところそれほど親しい人はいないんだ。それに修司とだって真智子を介して親しくなっただろ?」
「…まあ、確かにそうだけど」
「諒みたいに僕の音楽の世界に入り込もうとする人は真智子以外にはいなかったというか…」
「…確かに諒って呼んでるところからしてすっかり仲良くなったみたいだね」
「それは諒がそう呼べって言ったから」
「今日はこのままそっとしておくしかないか。でも夜中に起きたら、ビックリするかもね」
「そのことが気がかりだけど、今はそっとしておこう」
「じゃあ、慎一は今日は疲れたと思うし、お風呂にでも入って。さっき沸かしておいたから。私は佐久間さんの様子を見てるね」
「ありがとう。じゃあ、お風呂に入ってくる」
慎一は引き出しから寝間着を出すと浴室に向かった。
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