3-10 久しぶりの再会
そうこうするうちにも次々に訪れる人々で会場のロビーは賑わっていった。
—流石、T管弦楽団の演奏会だけあって、たくさんの人が来るのね—。
そう思いながら、真智子がふと受付けの方を見るとそこには受付けを済ませた田辺修司と杉浦まどかが立っていた。修司の後ろには大学の仲間らしき男女が数人いて、まどかも友人と一緒に来たところを合流したようだった。
「おお、慎一、真智子も!なんか盛大な雰囲気のホールだな!」
辺りをキョロキョロ見回しながら叫ぶ修司の手を取ると慎一が嬉しそうに言った。
「修司も杉浦さんも忙しいところをありがとう!」
「いつもサッカーばかりしてるからさ、今日はリラックスさせてもらうよ。大学の友人を誘って来たんだ」
修司がそう言うと一緒に来ていた数人がペコリと会釈したので、慎一も真智子も絵梨も幸人もつられて会釈した。
「…じゃあ、とにかく演奏、楽しみにしてる。ゆっくり話したいところだけど、また、そのうちな」
「私も薬大の友達、連れてきたの。真智子、真部君、招待してくれてありがとう。真部君のピアノ演奏、楽しみにしてるね。じゃあ、休憩時間にでも話せそうだったら声かけるね」
慎一と真智子に向かってそう言って手を振ると、修司もまどかも友達と一緒に演奏会場に入っていった。
その後、真智子の両親や弟の孝も受付けを済ませ、慎一と真智子に軽く声をかけ挨拶した後、演奏会場に入っていった。慎一の父はまだ来ていないようだったが、遅れてくるかもしれないとのことで、慎一と真智子と絵梨と幸人の四人は一緒に会場に入り、すでに決まっている所定の席に着いた。
開演時間を知らせるブザーが鳴ると客席は静まり返り、やがて舞台の幕が上がった。舞台上にはすでにT管弦楽団の楽員がそれぞれの位置についていた。司会進行役がはじめにT管弦楽団について紹介をし、1番目の曲目モーツアルト作曲『ピアノ協奏曲第21番』とピアノ奏者福井朱音が紹介されると、黄色の華やかなドレスを纏った愛苦しい顔立ちの奏者が舞台中央の指揮台の近くに設置されたグランドピアノの前で挨拶し、席に着いた。指揮者がタクトを振ると演奏が始まり、モーツアルトの明るく軽快な曲想の美しい旋律に会場は包まれていった。真智子もその澄んだ旋律に耳を傾けながら、演奏に聴き入っている慎一の様子を見守っていた。演奏が終わると会場中が拍手喝采に包まれた。
続いて2番目の曲目ロベルト・シューマン作曲『ピアノ協奏曲イ短調Op.54 』。紹介されたピアノ奏者佐久間諒はハーフのような顔立ちと金髪が一際目立つ青年でキリッとしたスーツ姿が似合っていた。ピアノ奏者がグランドピアノの前で挨拶し、席に着いて指揮者がタクトを振ると冒頭のフォルテから始まるシューマンの物悲しい曲想の幻想的な旋律で会場は包まれていった。特にシューマンの曲を課題曲にしている絵梨は真剣に聴き入っている様子だった。演奏が終わり、拍手喝采の熱気に包まれながら、目を輝かせている絵梨の横顔を幸人はそっと見守っていた。
2番目の演奏が終わると十分の休憩時間が入った。真智子は会場を見渡し、慎一の父、真部直人の姿を探した—。仕事の都合をつけてくるということになっていたが、無理が生じたのだろうか?
—その時、いつの間にか会場の外に出ていたのか、幸人が慎一の父、直人ともう一人、女性を連れて一緒にこちらに向かってきた。
「遅くなってごめん。慎一はトリを務めるんだってな。間に合ってよかった」
「父さん、わざわざ、ありがとう。頑張るよ」
慎一は直人に向かってそう言った後、隣りにいる女性に軽く会釈した。すると女性も慎一と真智子に向かって会釈したので、真智子も慌てて会釈を返した。
「じゃあ、向こうの空いている席で聴いてるから」
そう言うと、直人と女性は連れ立ってそこから離れた。
休憩時間の終わりを知らせるブザーが鳴り、舞台の幕が上がり、3番目の曲目セルゲイ・プロコフィエフ 作曲『ピアノ協奏曲第3番Op.26』とピアノ奏者原田響子が紹介され、青いエレガントなドレスを纏った奏者がグランドピアノの席に着き、プロコフィエフのアップテンポのリズムの華麗なアレグロの曲想に会場は包まれた。拍手喝采の後、続いて、4番目の曲目ベートーヴェン作曲『ピアノ協奏曲第5番Op.73皇帝』。颯爽としたスーツ姿のピアノ奏者藤村英之がグランドピアノの席に着き、ダイナミックな演奏が繰り広げられ、拍手喝采の後、十分間の休憩に入った。
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