3-8 プログラム
七月初旬に開催された桐朋短大での学内演奏会で真智子と絵梨と管弦楽のメンバーのアンサンブルの発表は練習の成果を出し好評だったので、次のステップとして学外演奏会に向けての練習が続けられた。
一方、慎一も一般公開のT管弦楽団と共演の演奏会に向けてピアノの練習に励んでいた。
そして、いよいよ一般公開のT管弦楽団と共演の演奏会の当日—。
この日の演奏会は慎一の他に海外留学の実績を積んだ5人のメンバーとT管弦楽団との共演で演奏曲目のプログラムが構成されていた。
<T管弦楽団演奏曲目プログラム>
1.モーツアルト『ピアノ協奏曲第21番』; ピアノ奏者;福井朱音
2.ロベルト・シューマン『ピアノ協奏曲イ短調Op.54 』;ピアノ奏者;佐久間諒
3.セルゲイ・プロコフィエフ 『ピアノ協奏曲第3番Op.26』;ピアノ奏者;原田響子
4.ベートーヴェン『ピアノ協奏曲第5番Op.73皇帝』;ピアノ奏者;藤村英之
5.ショパン『ピアノ協奏曲第1番ホ短調Op.11』;ピアノ奏者;島根律子
6.ラフマニノフ『ピアノ協奏曲第2番Op.18』;ピアノ奏者;真部慎一
プログラムにある通り、慎一は最後のトリを務めることになっていた。
会場のコンサートホールに慎一と真智子は早めに向かい、すでに会場に着いていたT管弦楽団のメンバーに挨拶し、軽く打ち合わせをした後、受付けのロビーに向かった。ふたりで受付けの近くに立って、エントランスの方を見ていると次々に会場に訪れる人々に混じって入ってくる絵梨の姿に真智子は気付いた。
「絵梨!こっち、こっち」
真智子が思わず叫ぶと、受付けでプログラムを受け取った絵梨はすぐに真智子と慎一に気づいて駆け寄り、慎一に軽く会釈すると真智子の隣りに並んだ。
「T管弦楽団と共演するってだけでも凄いのに錚々たるメンバーだね。しかも慎一さん、トリを務めるんだね!」
プログラムを見た絵梨は真智子の耳元で囁いた。
「そうなの、このプログラムを見ただけで演奏を聴く方もドキドキするよね」
「確かに。私たちの学内演奏会とはレベルが違う…」
「えっ!そうなのか……。私たちは私たちで、もうすぐ学外演奏会も控えているんだし、今日は参考にしないと!」
「そうよね。あ、ところで、3番目のピアノ奏者の原田響子さんって桐朋大学の先輩よ。誰もが憧れるようなとても綺麗な人なの。そっか、留学先から帰って来たんだ。演奏も楽しみね」
絵梨と真智子がそんなことを話しているところに受付けを済ませた真部幸人がやって来た。
「あ、叔父さん、ようこそ!今日は聴きに来てくださってありがとうございます!」
慎一がお辞儀するのにつられて真智子と絵梨もお辞儀した。
「慎一君、真智子さん、絵梨さんも!こんにちは!慎一君、いよいよだね。しかもトリを務めるんだね。頑張って」
プログラムをちらっと見ながらそう言うと、幸人はさりげなく絵梨の隣りに並んだ。その瞬間、嬉しそうにはにかんだ絵梨の横顔をそっと横目で見ながら、俄かにふっと気持ちが解れ、慎一の横顔を改めて真智子は見つめていた—。
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