3-6 待ち合わせ

 練馬駅に着いた真智子と絵梨は駅地下で夕飯の買い物をした後、時間があったので、真智子は絵梨に家で少し寛いでいく?—と絵梨を誘ったり、幸人が来るまで一緒についていようか—と声を掛けたりもしたのだが、絵梨は緊張のせいか一人になりたかった様子で、一人で時間潰すから大丈夫だよ—と真智子の申し出を丁重に断った。


「じゃあ、また明日ね」

「うん、また明日」

どちらからともなく手を振ると真智子は駅ビルの外へと向かった。一人になった絵梨は駅ビルをぶらぶらと散策しながら時間を潰し、約束の時間の6時頃に大江戸線の改札に向かうとすでに幸人は先に来て待っていて、絵梨が歩いて来るのに気づいて手を上げた。絵梨も手を上げて微笑んでいる幸人に気づき、駆け寄った。


「お待たせしました?」

「いや、今、来たところです」

「突然、電話してごめんなさい」

「そんなことないです。私もなんとなく気になっていたから。でも演奏会でまた会えるかなって思っていたからね」

「ええ。そうなんですけど、いろいろあって、早めにお話ししたかったんです」

「やっぱり、何か相談事があったんですね。じゃあ、こんなところで立ち話もなんだから、近くのイタリアンレストランで食事でもしましょうか」

「はい。今日は急ですし、お任せします!」

幸人は近くのイタリアンレストランに絵梨を案内した。


 レストランに入り、向かい合って席につくと幸人が言った。

「先にメニューを決めましょう」

「ええ、そうですね、……スパゲッティが美味しそうですね」

「そうなんです。ここのスパゲッティはグルメ雑誌でも紹介されていて、けっこういけますよ」

ふたりはゆっくりとメニューを決めると呼び出しチャイムでウェイトレスを呼んで、それぞれメニューを注文した。


「それで、話したいことって何かな?」

「えっと、実はお願いがあるんです」

「お願い?」

「はい。今度の演奏会の時、演奏以外の時間、できるだけ側にいて欲しいんです」

「えっ!?…まあ、別にいいけど。でもパートナーの真智子さんが側にいるでしょ」

「でも真智子には慎一さんがいますし」

「…それって、もしかしてカムフラージュってこと?」

「あっ、だけど、幸人さんにすでに彼女がいて迷惑だったらいいです」

「いや、そういう人は今はいないけど」

「じゃあ、いいですか?」

「…いいけど、なぜ、そんなお願いをするのか理由を教えてくれる?」


そこまで話したところで、料理が運ばれてきた。ウェイトレスが絵梨と幸人がそれぞれ注文したスパゲッティを丁寧にテーブルに置くのを見つめながら、ふたりは押し黙っていた。


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