3-3 恋のステップ!?

—そして、翌日—。


 個人レッスンを終え、学食に向かって歩いている真智子を見つけて、絵梨が駆け寄ってきた。

「真智子、昨日は進路のことで相談に乗ってくれてありがとう。やっぱり、予定通り編入試験を受けてみることにした」

昨日、悩み込んでいたのが嘘のように晴れ晴れとした表情で絵梨が話しかけてきたので真智子は内心、ホッとした。


「やっぱりその方がいいでしょ?」


「真智子から両親のことを言われて、あまり心配かけたくないなって思ったし、昔のこともいろいろと思い出してね……。両親は子どもの頃からピアノのことはずっと応援してくれたからね。小中高と桐朋に通って大変だったけど、高校で長谷部先生に出会って、ピアノ演奏を通して先生に憧れて人を好きになることって素晴らしいって思った気持ちはこれからも大切にしようってやっと思えるようになったの。あっ、だけど誤解しないでね。長谷部先生とはこれからも先生と先生の関係のままでもちろん、いいし、もうこれ以上好きになることはないことがよくわかったの。なんていうか…恋に恋していた感じだったのかなって思って……なんだか少し吹っ切れたかな」


「そっか。絵梨が少し元気になったみたいでよかった」


「真智子のお陰だよ。もっと自分のこと磨くためにも大学に編入して頑張ってみることにしたの。はじめから大学に進学しないで短大に進学して周り道になったけど、短大で以前のような窮屈感から解放されたし、真智子のような純粋で素敵な音楽仲間にも出会えたからね。私もピアノの腕ももっとステップアップできるように頑張る」


「私のことはともかく、絵梨は今だって充分、素敵だけどね。私も絵梨と一緒にアンサンブルが組めて、音大での毎日が充実してるよ」


「そう。真智子と一緒に進学できないのは今でも残念だけどね。三年生からは作曲も勉強できるんだって」


「わぁ、いいな。そういえば慎一も作曲もそのうち始めるって言ってた。きっと交響楽団と演奏したりする機会もあるんだよね。演奏会は聞きに行くからもちろん、招待してね」


「ちょっと話が先走りしすぎでしょ。先ずはアンサンブル頑張って、卒業の課題曲もあるんだから。真智子と一緒にいれる時間、大切にするからね」


「うん。ありがとう。絵梨なら、きっと大学に編入した後も良い出会いがあるよ。新しい恋のチャンスも訪れるかも。その時はまたいつでも相談に乗るよ」


「新しい恋っていうか、私、幸人さんのことが今は少し気になってるんだ」


「え!?そうなの?絵梨と幸人さん、気が合いそうだなっとは思ったけど…」


「もちろん、あの日、話しただけだから、気になるだけだけど。弁護士さんってこともポイント高いし、大人だし、顔も好みかな。だけど、幸人さんも長谷部先生のように実は彼女がいたりするかもしれないでしょ」


「…うーん、そうだね。私は幸人さんのことはよく知らないけれど、慎一にそれとなく聞いてみようか?」


「えっ、いいよ、いいよ。まだ、気になるってだけだし。演奏会の日に話す機会があればいいなって思ってるけどね」


「じゃあ、慎一の演奏会が先だから、その時にでも食事会ができるように計画しておこうか」


「えっ、ホント!?」


「もしかしたら、幸人さんも絵梨のこと気に入ってるかもしれないでしょ」


「とにかく、真智子が一緒ってだけで心強いけど、無理はしないでね。私も失恋したばかりだし、幸人さんにも彼女がいるかもしれないからね…」


「うん。彼女がいたらその時は仕方ないけど……話してみるとわかることってあると思うよ」


 いつの間にか恋バナで盛り上がりながら、ランチを済ませた真智子と絵梨は、アンサンブルの練習へと向かった—。




 

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