3章 近づく演奏会

3-1卒業に向けての課題曲

 そうこうするうちに演奏会当日は日に日に近づいていった—。


 演奏会の開催日時は音楽仲間以外については真智子からはまどかや実家にも連絡済みで、どちらも夏休み中なので都合がつきそう—と連絡が届いていた。一方、慎一からは修司や父に連絡を入れたが、どちらも都合がついたら来てくれるとのことだったが、叔父の幸人からは必ず聴きに来ると連絡があった。また、慎一は演奏会に向けてピアノの練習に励みながら、月一のペースでの通院を続けていたが、その都度行われた検査結果も順調で、課題曲としていたリストの超絶技巧練習曲の練習にも弾みがついた。


 そして、演奏会に向けての練習に励む一方で真智子は卒業に向けての課題曲として一年時に完成させた課題曲であるドビュッシーの『ベルガマスク組曲』の『1.プレリュード』、『2.メヌエット』、『3.月の光』、『4.パスピエ』とアンサンブルの課題曲であるドビュッシーの『牧神の午後への前奏曲』とシューマンの『アンダンテと変奏Op,46』の他に3曲以上、選曲しなければならないことで悩んでいた。


 一方、アンサンブルを組んでる絵梨は課題曲として一年時に取り組み始めたシューマンの『幻想小曲集』Op12の8曲のうち、『1.夕べに』、『2.飛翔』、『3.なぜに』、『4.気まぐれ』の4曲を一年時の学内演奏会で発表していたので、残りの4曲『5.夜に』、『6.寓話』、『7.夢のもつれ』、『8.歌の終わり』を卒業に向けての課題曲として取り組むことでシューマンの『幻想小曲集』Op12を完成させることを目指し、すでに練習を始めていた。


 選曲については個人レッスンの担当の佐藤みどり先生にも相談したりして、真智子が得意としていたドビュッシーの『ノクターン』についてはすぐに決まったが、慎一がすでにコンクールで受賞していたドビュッシーの『ピアノのために』に向かう自信は真智子にはまだなかった。


 また、高三のクリスマスに慎一がプレゼントしてくれたシューマンの『幻想小曲集 Op12 夕べに』も絵梨の課題曲と被るので悩んだ末選曲から外した。


 そして、その代わり、以前から関心があったクララ・シューマン、グリーグ、シューベルトの楽曲の中から1曲ずつ選曲することにして、最終的にクララ・シューマンの『バラードOp6-4』、グリーグの『ホルべルク組曲 』より『前奏曲 Op40-1』、シューベルトの『即興曲集 第3番 D 899 Op.90』を選曲し、レパートリーを増やし、卒業に向けての練習にも臨み始めていた—。


 そんな状況だったので、慎一との新生活が落ち着いたら、就活も兼ねてアルバイトを始めることも考えていた真智子だったが、それどころではないことに気づいた。


 でも、卒業後はアルバイトの延長のようなことでもいいから音楽に関わる仕事に携わりながら、慎一の音楽活動を支えていけるようになりたい—と内心、思っていた真智子は、演奏会が終わったら少しずつアルバイト探しも始めてみようと気持ちを切り替え、慎一との日々を大切にしながら音大での課題にも真剣に取り組んでいた—。

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