2-8 叔父との合流

「叔父さん、今から皆でそこにいくからそこで待ってて」

慎一はインターフォンでそう言った後、真智子たちに向かって言った。

「ほら、噂をすれば、もう叔父さんが迎えに来たみたいだ。真智子も絵梨さんももう出かけられそう?」

「ええ、大丈夫よ、ね、絵梨」

「ええ、特に準備することもないですし…」

「じゃあ、行こうか」


—慎一の後を付いて真智子と絵梨が玄関の外に出ると慎一は鍵を掛けた。その後、エレベーターで一階まで降りると、一階のロビーで叔父の真部幸人が待っていた。

「久しぶり、慎一君、真智子さん、それからそちらは…」

「はじめまして。真智子さんの友人の長井絵梨と申します。慎一さんとはさっき顔を合わせたばかりです。よろしくお願いします」

「長井絵梨さん、絵梨さんでいいかな。はじめまして。今日はどこかで夕飯を…という事になったんだけど、慎一君の体調のことも考慮して、近くの老舗の鰻屋さんを案内するよ。さ、車に乗って」

そう言うと幸人は外の駐車場に停めてあった車の運転席に座った。


「私のためにわざわざお気遣いありがとうございます」

絵梨は後部座席に乗り込みながらしおらしい様子で言った。

「えっと、慎一君とも久しぶりに会いたかったからね。もちろん、素敵なレディがふたりも同伴して食事できるのは光栄だけどね」

「幸人さん、そんなお世辞言っても何も出ませんよ。あっ、だけど、もちろん、絵梨は吉祥寺のお嬢さまだけど」

「真智子こそお世辞言って」

絵梨の隣りの横に座りながら、はにかむように俯きながらもその場に馴染んでいる絵梨の様子を見て、真智子は内心、ホッとした。慎一も久しぶりに叔父の真部幸人に会えて、嬉しそうな表情をしている—。


「今日はほんとうにありがとうね」

真智子の隣りで絵梨がポツリと呟いた。

「えっと……慎一も気を遣って機転を効かせてくれたからね」

真智子も絵梨に向かって囁くように呟いた。

「あっ、だけど、慎一さんの演奏を聞けなかったのは残念だったけど」

「演奏会でも聞けるし、また、そのうちね」

ふたりがひそひそと声を潜めて話しているうちに老舗の鰻屋に着いた。


「さあ、着いたから、三人とも降りて先に行ってて。俺は車を停めてくるから」

慎一と真智子と絵梨が車から降りると、幸人は車を駐車場に停めに行った。三人が鰻屋に入り、店員の案内でテーブルを囲んで席に着いてメニューを眺めていると、しばらくしてから入って来た幸人が三人をすぐに見つけ、空いている席に座った。


「ここ、小さな鰻屋だけどとても美味しいんだ。慎一君とも以前、何度か来たことあったよな」

メニューを見入っている三人に向かって、幸人が言った。

「あの、お値段がピンからキリまであるけど、今日は真智子たちふたりはともかく割り勘ですよね?」

絵梨が気を遣うように言った。

「えっと、絵梨さんの分ぐらいなら出せるけど、絵梨さんがそう言ってくれるならそうしましょうか」

「私もその方が気楽なので。突然、思いがけなくトントン拍子で真部さんたちとお食事することになったので」

「あっ、だけど、考えてみたら、合コンみたいだよね」


—絵梨と幸人が合コンなどの要領を得ているように話しているのを慎一と真智子はポカンとして見ていたが、ふたりの話に合わせるように真智子が言った。

「合コンってこんな感じなんですか?」

「あっ、ごめん。真智子さんも慎一君も合コンとは無縁だよね。とにかく、今日は急だったし、割り勘ということでいいかな。慎一君と真智子さんの分はふたりに任せるけど、大丈夫だよね」

「もちろん。叔父さんに変なことを気を遣わせてごめんね」

「いや、いいんだけどね。そんなに太っ腹じゃないからね。じゃあ、そういうことで、さっさとメニューを決めましょうか」

幸人の一声でそれぞれメニューを決めると、テーブルの上のブザーを鳴らして店員を呼び注文した—。


 仕事柄、話題豊富な幸人が場の雰囲気を盛り上げてくれて、絵梨との食事会のひとときは楽しく和やかに過ぎた—。帰りも叔父の幸人が絵梨を吉祥寺の家まで車で送ることになり、慎一と真智子をマンションの前で降ろすと絵梨を乗せた車は瞬く間に夜の街を走り去り、見えなくなった—。




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