2-6 ドビュッシーの旋律に身を委ねて

「絵梨、ちょっとごめんね。慎一からかもしれないから確認するね」

真智子は携帯を手に取るとメッセージを確認した。案の定、慎一からのメッセージだった。


—夕飯は叔父さんを誘って外で食事することになったけど、真智子たちは大丈夫?


 真智子は慎一のメッセージを見て、内心、慌てた。こんな状況だし、絵梨は今日はここでゆっくり休んだ方がいいかもしれないな—と思いながら、念のため絵梨に聞いてみることにした。


「あのさ、こんな時だけど、慎一が夕飯は外で食事をしたいって言ってるけど、大丈夫かな?」

「ごめんね。突然、お邪魔しちゃって、夕飯のことまで心配かけて……」

「やっぱり家で食べた方がいいかな…」

「大丈夫。外でもいいよ」

「そう。それでね、慎一ともう一人、慎一の叔父さんも一緒にってことなんだけどいいかな」

「いいけど…」

「叔父さんっていっても気さくで楽しい人だから」

「突然でちょっとびっくりするど、それって合コンみたいな感じかな?」

「ごめん。そんなつもりはないと思うけど、弁護士さんだし、会って話して損はないと思う…なんて絵梨はそれどころではないとは思うけど」

「…だけど、ちょっと気が紛れたりするかもしれないから、いいよ」

「ごめんね。慎一ったら絵梨が落ち込んでいること伝えたんだけど、慎一なりに気遣ってるつもりなんだと思うけど……急なことだったから…、叔父さんのこと思い出したのかもしれない」

「きっと頼もしい人なのね」

「うん。若々しくてスマートでなかなか素敵な人よ」

「そう。じゃあ、ちょっと楽しみかも」

気持ちが少し解れてきたのか、絵梨は不意に笑った。

「じゃあ、決まりね」

そう言うと真智子は慎一にメッセージを送った。


—大丈夫だよ。ありがとう。楽しみにしてるね—


すると真智子からの返信を待っていたのか慎一からの返事がすぐに返ってきた。


—じゃあ、夜の七時頃に叔父さんが車で迎えに来るから、それまでピアノでも弾いてゆっくりしてて。僕もそれまでにそっちに着くから—


—了解—


——真智子が携帯から慎一にメッセージを送っている様子を見ながら、絵梨が呟くように言った。

「いろいろ気を遣わせちゃってごめんね。でも真智子がいてくれてよかった」

「……話して少しは気持ちが落ち着いたかな?」

「自分の心の中で抱えているだけよりは少しだけ楽になった」

「それで、その披露パーティには出席するの?」

「辛いけどたぶん、その方がいいと思う」

「そっか……、それでその披露パーティはいつ?」

「結婚式が6月末で披露パーティは7月初旬頃だって」

「…じゃあ、辛いけど、それまでには元気にならないとね」

「うん…」

「ところで、せっかくだから、少しグランドピアノ弾いてみる?」

「私はもう少し休みたいから、真智子が弾いて聴かせてよ」

「そうだね。じゃあ、ドビュッシーの『アラベスク』とか『ベルガマスク組曲』でいいかな」

「うん。ありがとう」

絵梨はソファーにゆっくりと凭れ掛かった


 真智子は徐に立ち上がるとグランドピアノに座った。絵梨とはよく一緒に練習しているはずなの改まって聴いてもらうとなると俄かに走る緊張を振り切って、真智子はピアノを弾き始めた—。


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