2-3 繋いだ手と手
一方、慎一は丁度、レッスンを終えて、練習室で少し練習をしようかそれとも家に帰ろうかと思っていたところで、携帯に届いた真智子からのメッセージに気づいた。
—突然なんだけど、今日、アンサンブルのパートナーの絵梨を家に連れて行くけど、いいかな。絵梨、落ち込んでいて、このまま一人で家に帰すのは心配で—
慎一は真知子からのメッセージを見て、一瞬、戸惑った。でも真智子が友人を連れて来たいと言うのを無下に断るというのも気が引ける—。真智子のことだから、友人のことを心配して—というのはわかるし、その友人もきっとよっぽど落ち込んだ様子なんだろう—。そんな思いを巡らせながら、高三の頃、真智子と一緒に音楽室でピアノの練習をしていた頃のことがふとよぎった。あの頃も今も真智子の優しさに支えられて、今、こうしていられるのだから—。
—いいけど、その絵梨さんって今、どこに住んでるの?帰りのこととか大丈夫?親御さんたちは心配しない?
慎一から届いたメッセージを見て、真智子は絵梨に尋ねた。
「慎一が帰りのこと心配してるんだけど、絵梨の家は確か吉祥寺だったよね?」
「そう、吉祥寺だよ。真智子は……どこだったっけ?」
「練馬だよ。吉祥寺なら練馬からだとそんなに遠くないかな」
そう言うと真智子は慎一に返信を送った。
—絵梨の家は吉祥寺だから練馬のマンションからそんなに遠くないと思う。それに子どもじゃないんだから大丈夫だと思うけど、親御さんたちにはもちろん心配かけないようにするよ—
—了解。じゃあ、夕飯は絵梨さんと一緒に食べる?
—その方がいいと思う—
—わかった。じゃあ、夕飯、どうするか考えておくから真智子たちは家で寛いでいて。ふたりでピアノを弾いててもいいし—
—ありがとう。じゃあ、今日はお言葉に甘えるね—
真智子は携帯を仕舞うと絵梨に向かって言った。
「慎一もいいって言ってくれたし、今日は家でゆっくりしてって」
「ありがとう…心配かけちゃったね」
「とにかく、絵梨には演奏会までには元気になってもらわないといけないでしょ。絵梨は初めて会った時とてもしっかりした印象だったし、こんなに世話が焼けるとは思ってなかったわ」
「私もこんなに落ち込むなんて思ってなかったんだ……」
「とにかく、今日は家でゆっくりしよっか」
真智子は立ち上がると絵梨に向かって右手を差し出した。真智子の手を握ると絵梨もゆっくりと立ち上がり、そのままふたりは手を繋いで再び校門へと歩き始めた—。
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