1-7 打ち解けていく空気
カフェレストランに入り、それぞれメニューを選び注文すると、絵梨は待ってましたとばかりに真智子に言った。
「で、芸大の彼のこと、教えて」
「うん、実は付き合ってるんだ」
真智子は根負けしたとばかりに白状した。
「やっぱりそうでしょ。きっとそうだと思ってたんだ。で、名前は何て言うの?」
「真部慎一って名前よ」
「ええっと……もしかしたら、芸大の友人から聞いたことがあるかも」
「絵梨さんのお友達にも芸大に進学した人がいるのね」
「ええ。彼女、とっても美人なの。しかも社長令嬢で芸大には楽に進学したわ。以前会った時に、ちょっと気になる人がいるって言ってて、確か真部君って言ってたわ。そっか真智子さんの彼だったのね。だけど、そう言えば、確か留学したんだよね?」
「ええ、そう。留学したんだけど、もう、日本に帰ってきてるわ」
真智子はふと絵梨が美人だというその友達のことが気になった。
「もう、日本に帰ってきてるなら、半年ぐらいのコースだったのかな?一年なら、まだ帰ってきてないはずだものね。その彼女の話も八月に会った時の話で最近はずっと会ってないんだけどね。彼女、美人でモテるからいつでも取り巻きがいるようなタイプだから……」
「ええ、まあ……」
真智子は絵梨の質問に答えながら慎一が留学先で倒れた経緯を思い出し、そのまま言葉を濁した。そして、慎一が今、どうしているか気になって矢も盾もたまらなくなった。
その時、丁度レストランの店員が絵梨と真智子がそれぞれ注文したスパゲティを運んできて、それぞれの場所に置いた。絵梨の前にはシーフードスパゲティ、真智子の前にはジェノベーゼが並んだ。
「ねっ、美味しそうでしょ!」
目の前ではしゃいでいる絵梨の様子を見ながら、真智子は慎一から返信が届いているかどうか携帯画面を確認した。
—了解。楽しんできてね。でもあまり遅くならないように。心配になるからね—。
慎一の返信を確認して、真智子はホッと胸を撫で下ろした。
その様子を見ていた絵梨がすかさず言った。
「もしかして、彼から?真智子さん、嬉しそうな顔してるし。今日も約束してたとか?」
「えっ、約束していたわけではないけどね。さっき、メールを送ったからちょっと気になって」
「そうだよね。メール送ると返信が届くまで気になるよね。真智子さん、きっと彼とは良い関係なのね」
「うん。尊敬してるからね」
「私も長谷部先生のこと尊敬してるから好きになったの。あっ真智子さんほど近い距離じゃないのはわかってるけど。そのうち、それぞれの演奏会、聞きに行かない?」
「そうね。私たちの演奏も聞きに来てもらえるといいよね」
「そうだよね。頑張って、練習しないとね!では、いただきましょうか」
「そうね、いただきます」
「いただきますっ」
真智子と絵梨は食事をはじめた。
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