1-4『牧神の午後への前奏曲』と『アンダンテと変奏Op,46』
真智子と絵梨は今回は一台のピアノで連弾だった。あらかじめピアノを前にして隣り合わせで座っていた絵梨と真智子はお互いの目を見つめ合って心の準備ができたことを無言で確認し合った後、絵梨が言った。
「じゃあ、演奏を始めますけど、いいですか?」
「よろしくお願いします」
リーダーの仲田慶太が指でOKサインをふたりに送った。
もう一度、お互いの目を見つめ合うとドビュッシーの『牧神の午後への前奏曲』の初めのフレーズを絵梨が弾き始めた。それに続いて真智子も自分のフレーズを重ね、長閑でぼんやりとした曲想の連弾が練習室に響き渡った。その後のシューマンの『アンダンテと変奏Op,46』もふたりは息が合い、しっとりとした夢見心地の演奏を見事に披露した。
ふたりの様子をじっと見守るように見ていた管弦楽メンバーは演奏が終わると一斉に拍手した。
「流石、息が合って素晴らしい連弾ですね。おふたりとアンサンブルを組めるのはとても光栄です」
リーダーの仲田は真智子と絵梨に向かって目を輝かせて言った。
「アンサンブルのメンバー構成や曲目は先生方の話し合いで決めるでしょ。先生方も自分が担当した学生の個性をよく考慮して決めているようだけど、時にはメンバーの息が合わなかったりすることを話に聞いたことがあるわ。それに今回の『牧神の午後への前奏曲』と『アンダンテと変奏Op,46』はピアノメインだからふたりの息が合ってることはとても大事なことなのよ。だから、ほんとうに安心したわ」
ファゴットの岡田も仲田に続いて言った。
「俺たちも長井さんと高木さんと組めて嬉しいよ。なっ、佐々木」
「ええ、そうですね。おふたりとも上手で安心しました」
チェロのふたりも相槌を打った。
「俺も上手くハモれるよう、今、録音した演奏をよく聞いて練習しておきます」
ホルンの竹田が最後にポツリと呟いた。
「じゃあ、そういうことで、次回からのスケジュールについてのプリントを配っておきますが、用事や体調を崩したりして、参加が無理な時に連絡がつくようにラインに管弦楽グループを作ったので、各自登録して、連絡がつくようにしますのでこれから登録を行ってください。僕からも適宜連絡を入れるので、皆さん、よろしくお願いします」
リーダーの仲田の指示に従い、各自、ラインで管弦楽グループに登録した。
「では、今日のところはこれで解散ということにしますが、管弦楽メンバーでこれから食事に行くことになってるんだけど、長井さんと高木さんも一緒にどう?」
仲田の申し出に対して即座に絵梨は答えた。
「えっと、私は今日のところは遠慮しておくわ。また、今度ね」
「じゃあ、私も今日のところは……」
真智子も絵梨につられて言った。
「ふたりともつれないなぁ。ま、でも今日は顔を合わせができたし、おふたりの演奏も聞けたので、良しとしておきます!じゃあ、次回は僕たち管弦楽グループの演奏も入るから今日より練習に時間取られると思うけど、そのつもりでよろしく!」
「いい演奏にしていきましょうね」
そう言って微笑んでる絵梨と仲田の方に交互に目を向けながら、真智子は黙っていた。
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