第5話 老人

 ネットでたまたま探し当てた居酒屋へゆく、ゆうたろう。大通りより少し外れた個人で営んでいる居酒屋へひとり入る。深夜11時。ひとりの老人が味噌汁とごはんを食べながら酒を呑んでいた。見た目は70代であろうか。ござっぱりとした服装で何か独り言を言いながら酒を呑んでいた。

 横目でちらっと見ながらその人から思いっきり席を離れたところに座る。そして、ビールを頼む。

 なぜか意識してしまう。あまりに店の雰囲気に馴染んでいる。常連さんなんだろう。そう思っているうちにビールが来て、一口呑む。これで落ち着いた。

 カウンター席なので、その老人とは顔を見合わせることができない。でもその方がいい。顔合わせてもなんも面白くないからだ。居酒屋でお客さんの顔を見るのが目的ではなく、料理がどうかの問題だ。しかし、気になる。

 そこへ、飲み友達が入り話し相手ができた。でも、男はべしゃりではない。ネタとネタの間に沈黙が起き、それで時間が過ぎていく。人生、趣味、出来事、料理のお品書き、酔いが進めば女の話。ゲスなもんである。

 話が趣味になった時、友達が映画の話をした。そこへ老人が「最近〇〇を見たンんだ。」と突然入り込んできた。そこで一瞬沈黙が生まれる。「〇〇って何?」「じいちゃんどうした?ネタにヒットしたか?」心の中でつぶやく、ゆうたろう。さらにその老人は、映画の話をはじめ、一通り言い終わったあと、「あと何分でかえる」と店員に伝える。友達との話はそこで遮られ何か優越感に浸るその老人に嫉妬する。

 老人が店を出た後、店員に「あの方は常連さんですか?」と聞くと、「まあそうです。何かCDを売る商売をしているとか。」という。ふ~ん。

 自分も店を出て路面電車に乗り、ある交差点にあるカラオケ店を眺めたいたところ、植え込みにその老人が紙袋を両手にかかえながら寝ていた。しかも、社長が座りそうな椅子にドカッと股を広げて座っているように寝ていた。幸せそうな顔だ。その顔を見ながらフェードアウトし景色が変わる。

 絶望とかなんとか言っている割に、その老人の顔を見てほっこり微笑むのは余裕があるじゃないか、ゆうたろう。

 

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