第114話 アンチヒーロー小説

 ども。

 新巻へもんです。


 暖かくなったと思ったらまた寒さがぶり返してきて、準備万端整えたビールが冷蔵庫で無駄に冷えてます。山盛りのフレンチフライで飲んでやろうという計画だったのですが、また暖かくなるのを待つしかないですね。さすがに平日にワインのボトルを空ける訳にもいかないし……。


 さて、本日は、私の嗜好にドンピシャはまった小説のご紹介。lager様の「聖女(クズ)と勇者(のうきん)と王様(さぎし)と私」です。

 https://kakuyomu.jp/works/1177354054893993523


 ジャンルとしては異世界ファンタジーで転移もの。しかし、物語を引っ張る3人組がいわゆる普通のヒーローじゃない。どちらかというと行動原理は悪人寄りのアンチヒーローです。この時点で私の中で合格点に達してましたが、読んだら止まらなくなりました。


 作者のlager様の短編は、今までにもいくつかの自主企画等で拝見してまして、多彩なジャンルを手掛け、技巧に富んだ物語を書かれます。読者の予想を裏切ったりするのも得意な印象でした。ただ、正直に申し上げると、短編の勢いを維持したまま長編は厳しいだろうなと思っておりましたです。


 現時点で54話13万字ありますが、私の想像は外れました。まず、救国の英雄となったところから始まる倒叙形式というテクニカルな書き出しです。こういう頭脳戦の要素を持った話で結果が分かっているのというのは不利なはず。それなのに、途中のドキドキハラハラが止まりません。


 主役の3人の人物造形も巧みです。突き抜けた脳筋キャラ。これはまあ失礼ですがそれほど独創的ということはありません。ただ、変装と交渉の達人と性格の良くない知恵者の2人は秀逸でした。変装と交渉の達人というのはアクション映画では定番です。スパイ大作戦のジム・フェルプス、特攻野郎Aチームのジョン・スミス。別ジャンルに持ち込むとこんなに個性が光るとは……。


 知恵者が膨大な書物から秘薬の秘密を探り出すシーンも圧巻です。これはまさに文字だから表現できる場面ですね。映像だと結構退屈な絵になりそう。そして、この3人は運命共同体ではあるものの、ずっと協調しているかといえばそうでもない。脳筋なんか戦うことしか頭にないので計画をぶち壊すこともあります。


 主役3人は正義の味方ってわけじゃない。結構えぐいこともするんだけど、読者の嫌悪感をかきたてないギリギリのラインで、あくまで結果的に悪人を懲らしめる。そのバランスが見事です。現実で善意から地獄を作るケースを見てると、この3人はむしろ清々しい。自分の利益の為に行動して結果的に世間の為になるなら皆ハッピー。


 好きなだけに私もアンチヒーローの話も書いてみたいなと、プロットの下書きもどきは準備していたんですが、破棄しました。これを読んだら無理。更新頻度が高くはないというのが玉に瑕ですが、アンチヒーロー好きなら必見です。


 ではでは。

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