エピローグ(1)
フィフィールズ伯爵家は、西の柱なる国を、そう呼ばしめる存在である霊峰天支柱を領土に接している。より正確に言うなら、霊峰天支柱の周りをぐるりと囲む土地を、領土として国王から与えられていた。霊峰天支柱はあくまで王領であるので、ある意味王領の周辺警護の任を与えられているようなものだ。
そして、そんな任を与えられたフィフィールズ家は、元々の血筋をカンリッツァ家と同じくしている。
ただ、この事を知っているのは、当のフィフィールズ家とカンリッツァ家の一部だけだ。
フィフィールズ家の世間評といえば、名誉はあるが実利の無い土地を経営する貧乏な田舎伯爵家、というものが専らであるし妥当だった。
当のフィフィールズ伯爵も何を言われても、
「別に暮らしていけないほどではないし、問題ないよ」
と、暢気な事しか言わないため、誰もにフィフィールズ家を無欲の伯爵家と認識させる。しかも、演技ではなく本当に無欲なのだ。代々のフィフィールズ伯爵家が概ねそうした具合で、気付けばどんな貴族もフィフィールズ家とカンリッツァ家の繋がりなど知らない事になっていった。
「別に隠してはいなのだから家系図を遡れば判るはずなのに、誰も気付かないものだな」
寛いだ様子でイチが淹れたお茶を飲んでいるヨシマサを、ユーリとナナリィは呆然と見つめる。
既に各郭から十二候爵家の娘達とアニ、オーナ伯爵令嬢以外の貴族令嬢は、それぞれの家に帰っていた。商家、豪農の娘など、身元のはっきりした娘達も去り、残った娘達は東郭に集まっている。十三人の貴族令嬢と、八十二名の娘達だ。
「家系図の名だけでは、単に同名なだけだと思われるのでしょうね。そもそもフィフィールズ家が血筋を同じくといっても、カンリッツァ家の臣である事は初代から一切変わらない事ですし」
「フィフィールズが臣の立場を越える事が一度でもあれば、カンリッツァでもフィフィールズを信じるなと書送りされたのだろうな」
暗に十二候爵家は臣の立場を越えるからカンリッツァ家はお前達を信じないのだ、と言われている。その事を察するだけの頭があるユーリとナナリィは揃って眉を寄せた。
イチが側に居るから癇癪は起こしていないが、嫌味は止められないのだな、とアニの眉も寄る。
「まぁ、そうした訳で、昔からカンリッツァ家の私的な要件をよく果たしてきたのがフィフィールズという家でして。今回も私が陛下の要請に従って行動した次第です。ユーリ様、カッツェ様におかれましては、ご心労をおかけする事になり、誠に申し訳なく」
「いえ、アニ様のお働きは私共にとっても誠に有り難く」
「我々こそご苦労をおかけする形と成りました事、誠に申し訳なく」
アニもユーリとナナリィも共に頭を下げ合っているのを、ヨシマサはしばらく見ていた。アニに候爵家の令嬢を同席させたいと言われた時は、思わず舌打ちをしてしまい、イチが居なかった事に安堵した。まぁ、そんな態度を取る事を見越されてアニが余人を排したとも言えるが。
(クプリコンとピスカークスの娘か…)
最早反射に近い十二候爵家への嫌悪は、拭い難い。だが、少なくともアニが言う通り、後宮へやってきた候爵家の娘達には自分を妻妾の身にという野心が無い事はもう解っている。傍らで不思議そうにしているイチからも、ユーリの話は少し聞いているし、少なくともユーリには好感を持っており、ナナリィとネーアについても個人に対し悪感情は持っていない。
気分を変えようと、息を吐いて話題を変える事にした。
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