後宮北郭(3)

 先王ヨシタツ・サカキ・カンリッツァとの間に入った亀裂を埋めることができぬまま、結局彼は父王と同じ三十二歳で亡くなった。

 妻を娶っていない彼の急逝に、貴族達は戦慄した。カンリッツァ家の人間は、彼の妹マルマド・ハツナコしかいないのだ。王家男系の血は絶えたことになる。

 だがすぐに、ヨシアキを喪ってからというのも、閉鎖空間となっていた後宮に、ヨシタツの子が居ることが解った。

 母親は不明。父親から侯爵共を信用するなと言われて育った、十二歳と九歳の息子、そして二歳の娘だ。長男はヨシマサ・マンリョウ、次男はヨシタダ・センリョウ、長女はサキマド・サクラコ。

 十二侯爵家は、今度こそ何とか挽回せねばと考えていた。唯一の公爵であるマルマドに摂政としてヨシマサに付いてもらうようにし、懸命に十二の少年を国王として導こうとした。

 だた、新しい国王と十二侯爵家との関係は、上手くいっているとは言い難かった。

 先王が、有益性を説明すれば政策に反発を示すことがなかったのとはうらはらに、彼はどのような説明を聞いても、いや、説明を聞くまでもなく侯爵家が持ち出す政策にはまず反意を示した。短気で癇性な彼は、時に説明をしようと口を開いた侯爵を無視して議会の場を去ってしまったりもした。

 むろん侯爵家は諫言も甘言も使って国王を導こうとしたが、上手くはいかなかった。

 強気に出れば反発を、弱気に宥めれば猜疑を、彼が言葉を聞く相手が居るとすれば、それは叔母のマルマドだけだったのだ。

 幸いだったのは、マルマドが十二侯爵家にさほどの敵愾心を持っていなかったことだろう。彼女はカンリッツァの男性が次々に若くして亡くなっていくことに世の無常を感じており、兄が子供達に言って聞かせていたような、憎しみや恨みは、既に捨てるべきものと悟っていた。

 そのため、摂政となったマルマドは自身の役割には深く理解を示しており、彼が目に余る態度をとった際などは教え諭し、侯爵家が上げてきたからではなく、政策の内容が民にとって必要であるか否かを判断するよう促した。

 惜しむらくは、この国では信仰や道徳は己の内より湧き出すものとしており、人に押し付けるものではない、とされていることだろう。たとえ親子、師弟のような教育的上下関係があっても、私はこうした理由でこの教えを信じている、と言うことはあっても、この考えは素晴らしいだからあなたも信じなさい、ということはないのだ。そのためマルマドはヨシマサの精神面に対し強制的な教育はしなかった。

 幸い国家が瓦解するようなことはなく、日々は過ぎ、ヨシマサは十八歳となった。

 ここで十二公爵家は、同じ轍を踏むわけにはいかないと考えつつ、だが国王に妻を娶ってもらうにはどうしたらいいのかについて議論した。

 勿論、彼等はマルマドにも相談した。

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