後宮北郭(2)

「いえ、でも、そのような」


 義姉のために、貴族の人数を減らし、民の数を増やすよう言ったのはアスラである。その尻拭いをリリィに押し付ける訳にはいかない。


「態度悪かったのは謝るし、別に押し付けようなんて思ってないよ。やることはちゃんとやるし」


 指に巻きつけていた髪を解き、慌ててファランもリリィに向き合う。

 少女達の反応に思わず笑みを浮かべて、リリィは否定する。


「いえ、お二人のやる気や能力に疑いなど持っておりませんよ。一人が受け持った方が判断基準が明確で解り易いだろうと思ったのです。それに、わたくしは、神僧となるために市井を行脚したこともございますので、彼女達も話をし易いだろうと考えまして」


 気遣いとは別の自分が担おうとした理由を語ったリリィが、神僧志望だというのは貴族間では有名な話であったので、二人も得心したように頷く。

 リリィの神僧志望は僅か八歳の頃からで、十になった時から毎年、原初神を祀る社を行脚している。無論子供の頃は領内の社を巡っていただけだが、十四になってからは、領外へも足を伸ばし、去年など半年がかりの行脚を行っていた。誰の目にもたおやかな貴族令嬢としか映らない彼女だが、深く国内の民の生活を見知っているのだ。


「時は有限、ですが彼女達の心を無理にこじ開けるような真似はしたくないもの。早速取り掛かりましょう」


 後宮に入るなり礼装を解き、質素な藍染木綿の服を纏ったリリィは、すっと立ち上がって部屋を出て行く。

 彼女達の入宮からおよそ一ヶ月後に、国王初めてのお渡りが予定されている。彼女達はそれまでに後宮を整えておく責務があった。

 とはいえ、相手は一人一人感情を持つ人間だ。まして、この騒動においては害を被っているばかりの娘達ともいえる。できる限り誠実に、個人が満足できる形で寄り添っていきたい、とリリィは考えていた。

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