第三話:後宮北郭(1)
時は少し遡り、そんな気鬱な将来の義姉が、まだカリンを見下ろしていた頃。
「まず重要なのは、娘さん達の意識調査ですよね」
幼い頃から仲良くしている将来の義姉のため、兄との結婚式を挙げてもらうため、この事態を早急に終息させたいと願うアスラ・シュヌ・カンセールは、気合を込めて言った。
まだ十四という年齢が信じられない妙齢の女性のような容姿をしている彼女は、幼い頃から憧れているキヨの容姿こそ理想だと思っている。が、残念ながら、何一つ似てはいないのだった。
長身で細身のキヨに対し、小柄で豊満な体つき。細くさらりとしたストレートな髪に対し、しっかりとした太さのある波うつ金髪。くりっとした垂れぎみの丸い青目。ぷっくりとした桃色の唇。くっきりとした眉にはっきりとした鼻梁。
あまりに違い過ぎるので、嫉妬心を持つことはなかったが、最近は理想が服を着て歩いているキヨを傍からためつすがめつできる義妹ポジションに幸福を感じ始めているので、理想と違い過ぎる自分の容姿がコンプレックスではあることは間違いなかった。
「ほんっきで、玉の輿のったんどー! って思ってる子もいるかもだしね」
ファラン・イニアス・アライスはアスラよりも一つ年上ではあるが、アスラ同様まだ社交界デビューしていない。使命を帯びて後宮入りしたが、見合いだの結婚だのという話題は、まだ実感も興味も沸いていない遠い話であった。今も、柔らかな栗色の髪を指にくるくる巻きつけながら、同色の目が興味なさそうに人名の書かれた紙を見下ろしている。
本来は明るい性格の美少女なのだが、楽しみにしていた社交界デビューを前にこの状況になったことで、少し拗ねているのだった。
「まぁ、そういう者もいるのでしょうが、それよりはどんな境遇であれ現状よりはましという考えのもとここに居たがる者の数を把握するべきでしょうね。貴族以外の娘の聞き取りはわたくしが行いましょう。お二人は貴族令嬢の方々とお話を」
リリィ・ランツァ・ジェムニスは、この場の最年長者として一番労力のいる仕事をかってでた。まだ社交界デビューも終えていない二人には、こんな場所に来てしまったけれど楽しく貴族達とお喋りでもしていてもらおうという気遣いも含まれている。
緩く波うつ銀の髪。ジェムニスの家に時折現れる銀の目。凪いだ湖面の月を思わせる滲み出すような色気に、美しい笑みが艶やかだ。もっとも、彼女は生涯独身を決めており、この騒動が無ければ妹の結婚を見届けた後に髪を落として神僧となる予定だった。いや、今でもそのつもりである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます