後宮西郭(4)

 この時、十二侯爵家は揃って己達の失策を覚った。

 例えば神事を司るトールス家だけでも、常に国王の傍にあれば何かが違ったのか。あるいは近い場所に領を持つクプリコン家、あるいはピスカークス家から夫人や娘を呼び寄せ後宮に入れていれば。いや、せめて国王が十になった際に代行権の解除を申し出ていれば。

 後悔は、絶対に先に立たない。

 たらればを論じても仕方がないとは解りつつ、彼等にはそれ以外にどうする事もできなかった。

 十四の国王は代行権が解除されても、十二家が上げる政策に疑問を投げることはあっても否定や反発を示すことはなく。といって彼等を忠臣として信頼している素振りも一切なかった。何か反発があれば、そこを足がかりに国王と胸襟を開いて話合う場も持てたかもしれない。

 だが、そうした機会は訪れなかったのだ。

 やがて、国王が十八になった時。

 婚姻の話が持ち上がり、彼は初めて十二家に反発を示した。だが、彼等は国王と胸襟を開いて話し合うことはできずに終わる。この国では、王家の婚姻は政ではなく、カンリッツァ家の私事なのだ。国王に結婚の意志があるのなら、反発を受けたからといって無理やり話をすることではなかった。

 有史以来初めてだろう。未曾有の国難を何とか乗り切りながら、決定的に王家と十二侯爵家の間に埋めようのない溝が出来上がったのは。


(リーオ家が遅れるという連絡があって以降、身元不明の娘の二割は北が受け持ってくれたけれど…先が思いやられるわ)


 今も、王家からの信頼を得られていない中で侯爵家の人々は必死に動いている。

 言葉でこそ失敗していたカリンも気持ちは十分にあるのだ。

 ちなみに、キヨには、この後宮での日々の中でカリンを何とかするという役も任されている。何とか、とは、侯爵位の女性に求められる役割を不足なく果たせる程度というものだが、全く曖昧で及第点もよく解らない難問だ。しかも、それを彼女が担う事になった理由は、単純に今回集められた侯爵家の娘達の中でもっとも年上の二十三歳だったからだ。


(こんなことなら、さっさと式を挙げてしまえば良かった)


 少しだけ心が折れそうになりながら、彼女は北の空を見る。彼女の負担を少しでも減らそうと気遣ってくれた将来の義妹がいる北郭の方を。

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