後宮西郭(3)

 国難の時であるのだから、気を引き締めねばと思うが、キヨの口からは何度も溜息が漏れる。


(今更詮無いこととはいえ…他に何も手はなかったのか………)


 なにせ二千五百年の歴史があるのだ。西の柱成る国で王家の血が断絶の危機に瀕したことは、過去にも何度かある。

 今回の発端は今から二代前、ヨシアキ・タチバナ・カンリッツァ国王が三十二歳の若さで急逝したことだ。その時、カンリッツァを名乗る人間は、ヨシアキの母、七歳の息子、二歳の娘しかいなかった。

 国の政のほとんどは、十二侯爵家が長を務める各機関が合議を行うことでその方針を定めていたが、最終決定権を持つのが国王だ。

 ここで、十二侯爵家は一つの決断をした。

 唯一の同じ家名を名乗る従兄弟で夫だった先王に先立たれ、さらにたった一人の愛息子をも喪った、悲しみにくれる国母を摂政にして、わずか七歳で父の後を継ぐことになった国王を政治の場に引きずり出すのか。

 代行権という、十二侯爵家の満場一致をもって国王の裁決となす、特殊権限を発動させるのか。

 彼等は、迷いつつも代行権の発動を決めた。

 先王が亡くなる前に、北方で未曾有の飢饉が発生したこと。彼等が代行権について話し合っている最中に、海に面した西方で大津波による被害があったこと。それらも、決断を後押ししていた。

 そして、代行権の発動後。立て続けに王都南方から南下しつつ地震が頻発し、南端からすぐにある火山島が噴火した。噴火は一年以上続き近隣では、流れ出す火砕流のために漁業が行えないばかりか、噴煙のために農作物も不作となった。

 しかも国内の災害はこの後も続いた。

 この有史以来初めての連発する自然災害の国難に十二侯爵家が必死の対応を行っていると、代行権の発動から七年の時が過ぎた。

 十二侯爵家の目が、王城から外に向けられていた間。彼等は決して王家を蔑ろにしていた訳ではなかった。ただ、どうしても優先するべき事態が他に有ったのだ。今更になってみれば言い訳に聞こえるやもしれないが、誰もが初めての度重なる国難にパニック状態に陥っていた。

 そして、国内がようやくともいうべき平穏さを取り戻し始めた時。

 国王にとって唯一の成人した肉親であった国母が亡くなった。

 十二侯爵家が気を緩め始めた最中の突然の訃報に城へ馳せ参じると、そこには、祖母の死を嘆く少女と彼等を猜疑の目で睨む国王がいた。

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