後宮西郭(2)

 東郭の三人と同様に今朝入宮を果たした二人は、主に伯爵家の娘達数人と共に西郭にやってきた。

 そこまでは良かった。

 リーオ家の入宮が遅れていることは周知の事実だったので、気を効かせた伯爵家の娘が何かお手伝いできることがあれば何なりとお申し付けください、と申し出てきた。そう、そこまでもまだ良かった。侯爵家の娘達に受けるつもりはなかったが、申し出自体はただの申し出だ、断れば良いだけである。


「君に何ができるっていうのさ、必要ないよ」


 もっと他に言い方ってものがいくらでもあるだろう、そう言わざるを得ない言葉選びでカリンが断った時。西郭の雰囲気は最悪になったのだ。

 気遣わしげだった伯爵令嬢の顔が一瞬で凍りついたその時を思い出し、キヨは眉間に手を当てる。

 武門の名高いリッブラ家の末娘。十七歳のカリンの口の悪さ、いや、言葉選びのまずさは、侯爵家の間では有名であった。上に五人の兄を持ち、悲しくも母とは物心つく前に死に別れ、祖父と父と叔父、と見事に男性のみに囲まれて育った彼女は、気を遣った物言いというものを知らない。

 娘の教育に疎かった保護者達が、傅役の少年は付けても乳母を付けなかった事も大いに関係しているので、それを知っている他侯爵家の女性達は、彼女が社交界に出てきた頃から気を付けるようそっと教育してはいたのだが、残念ながらたった半年のそっと教育では十六年を覆せていなかった。

 先のカリンの発言を、正しい言葉選びで表すならば、


「これは我ら侯爵家が責任を持って行うべき仕事ですから、どうぞお気を遣わないで下さい。伯爵家の皆様には皆様でやっていただかなくてはならないことが多くございます。皆が己に与えられた責務を果たせば、この難局を共に乗り越えることも叶いましょう。どうぞ、共に励んでまりましょうね」


と、このようになるわけだ。

 あのままにしておく訳にもいかず、キヨは、まず伯爵家の娘達のもとに赴いた。そっとカリンの発言についてのフォローを入れ、スキルピオ家の血に最大限抗った優しげな笑顔を浮かべる。後は、最も気遣いある言葉をもって、協力体制を確立させた。何事もなければ、する必要のなかった挨拶だが、彼女の中ではこの程度のことは想定内だ。


「ふぅ」


 溜息でここまでを振り切り、本来の仕事をこなすため、西郭で身元の解らない娘と話をするべく歩き出した。

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