第二話:後宮西郭(1)
一方、話題の西郭では、表情筋の機能を失ったかのような能面顔が、土下座する少女を見下ろしていた。
「貴方に私は何一つ期待していない。実質この西郭を切り盛りするのは私の役目と心得ている。だから邪魔だけはするな。できる限り何もするな。基本的に部屋に引き篭っていろ。貴方に私が望む事はそれだけだ。理解できるな」
酷薄という言葉が頭を過るのは、蒼白という他ない肌色のせいか、薄い唇や切れ長な目のせいだろうか、それともその無表情さ故か。キヨ・カサネ・スキルピオは、感情を一切排したような声で説教をし、頭痛をこらえるように額に手を当てた。
キヨは、整った顔をしている。だが、創国史という初代国王と十二侯爵家の活躍を物語調にまとめた書物にも記述されていることなのだが、スキルピオ家にはあるはっきりとした特徴があった。何故か、代々、顔が蛇に似ているのだ。
日に当たっても赤く腫れるだけの白い肌。さらさらと真っ直ぐに流れるような薄い灰白色の髪。髪よりも色が白に近いため肌と紛れがちな薄い眉。眉と同様に白い睫毛に囲まれた艶めく黒い目。
どれほど異なる外見を持つ他所の人間と結婚しようとも、なぜか表に出てくるのはスキルピオの血。スキルピオ家の呪いとも呼ばれるこの顔の恐ろしい所は、他家に嫁いだ娘の産んだ子の表には出てこないことにある。
スキルピオ家では、長年にわたり蛇神を祀ったり、蛇の保護に努めたり、とやってきたのだが、今のところ全く効果は無い。
「はい。誠に申し訳ありませんでした」
カリン・ハイネン・リッブラは、はっきりと返事をして、そっと顔を上げた。
丸く秀でた額によって各パーツが下へ追いやられ、歳よりも幼くみえる愛らしい顔立ち。編み上げられた艶めく黒髪。くりっとした丸い目は、紅玉のようなはっきりとした赤い色をしている。きゅっと引き結んだ唇の、ぷくりと膨れた桃色が、何とも可憐であった。
体格も小柄なカリンが蹲り、キヨが見下ろしている様は、傍から見れば小さな鼠が蛇に睨まれているような印象の構図だった。まぁ、二人以外誰もこの場にはいなかったが。
「はぁ………では、ここで大人しくしていろ。もし用があればまず誰かに言え。自分で動こうとは考えないでくれ」
「ははぁ!」
キヨは、そうしなくては伝わらないと解っているので、強めの口調で告げ、部屋を出て行く。後には、べったりと床に伏すカリンだけが残された。
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