後宮東郭(4)
王都近郊や侯爵家領などは、まだ良かった。民の多くは王家へ好意的であり、見合いとして後宮へ上がるという話も豪商や豪農の娘を中心にちょっとした非日常体験をするという観光感覚で参加する者も居たほど問題なく受け入れられていた。
だが、鄙びた田舎となるとそうもいかなかった。支度金が手に入ることもあって、本人の意思を無視した、あるいは泣く泣く了承せざるを得ない状況で、身売りのように後宮に送られることになった娘達が出たのだ。更に最悪なのが、人拐いが横行する地域がいくつか出たことだろう。
無論、拐かしの情報が入った時点で対応に動きはしたが、拐かされて後宮に連れてこられた娘の中には、戻ることができない者もいたのだ。様々な事情で戸籍を持たず、出身の村どころか自身の名前さえ解らない娘達。あるいは戻りたくないが故に口を噤む娘達。
「まぁ、豪商豪農の娘達は行儀見習いの会でも開いて三ヶ月ほどしたら順次家に戻せばいいでしょうけど………問題は戻れない娘達よねぇ。できる限り出身は特定するよう動いてるけど」
彼女達は後宮にやってきた娘達を無事に実家に帰すためにこれから働く。
「正式に妻妾になる人間が決まるまでは雇える人数も定められない。安易に此処に居れば良いなどとも言えんしな」
「まあ、全ては今からですよ。このためにわざわざ我々が上がったのですから」
彼女達はそれぞれ許嫁がいた。むしろ結婚まで秒読みの状態だった。
社交界デビューも一緒だったのだしどうせなら結婚式もまとめてやってしまおうと計画したのが運の尽き、と言おうか家の幸いと言おうか。
日取りの調整などというのは当事者の両家だけでも面倒なものだが、それを六つの家で調整しようとしたのだ、時間がかからないはずがない。結果、産まれた時から許嫁が決まっていれば、二十歳前には式を挙げるのが常の中、揃って二十歳を過ぎても未婚となっていた。
「でもねぇ、一郭だいたい二百五十人でしょお。私達三人で手分けしても八十人以上を聞き取りしないといけないなんて、ちょっと気が重い作業よねぇ。彼女達の人生がかかっていると思えばなおのこと」
「そうですね。でも、そんなこと仰っていたら、西の方に怒られます、きっと」
「ああ。リーオ家の方の入宮が遅れるのだったな。二百五十人を相手に二人か…大変なことだ」
三人は苦笑と共に見つめ合う。
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