後宮東郭(3)
くだけた様子とうらはらなあまりにも贅沢な最上礼装姿なのは、今から二時間前の今朝、彼女達が後宮への入宮を果たしたばかりだからだ。
本来の後宮という場所は、入宮が即ち国王との婚姻関係の成立を意味し、出ていくことは問題があって離縁されたと判断される。だが、今回の後宮招集は、婚姻の前、いや前々段階だろうか、見合いの場を提供するために行われている。
謂わば巨大なお見合い会場が後宮なだけで、本来の後宮としての機能はまだ持っていない。まぁ、もっとも、見合いといいつつも諾否は国王にのみ許されているのだが。
このような国家事業が敢行された背景には様々な事情があるが、十二侯爵家は軒並み己達の責任を自覚している。そのため、王城後宮の東西南北にある各郭に、侯爵家から三人ずつ、家命を帯びた娘達が派遣されたのだ。
ここ東郭には、サシトリュスィ家三女、アクリスト家長女、トールス家長女の三人だ。彼女達は全員二十歳で、同時に社交界デビューして以降気の置けない付き合いの友人関係を築いている間柄である。
「これで民の女性の中から王妃が選ばれたら…目も当てられない」
王家の血に市井の民の血が混ざることなど許されない、というような意識は、少なくともこの三侯爵家には無い。
「最悪の最善としてその女性が乗り気であれば、まだ良いけれど、気合いだけでどうにかできる限度ってあるものねぇ」
単純に理解しているのだ。感情よりも優先するものがある不自由な生き方をしなくてはならないのが貴族である、ということを。市井に生きてきた人間には四六時中人の目がある生活は籠に囲われた、飼われているような気分になるはずだ。産まれた時からその境遇にある彼女達でさえ時には感じるのだから。
「中には身売り同然、好き合う相手から引き離された娘や拐かしに遭ったらしい娘もいるのです。可哀想なことをするものです…こんな事態に巻き込まれなければ平穏に過ごせた娘達には情けないことと言わざるを得ません」
西の柱成る国では、万物に霊気が宿り、人智及ばぬ力は全て信仰の対象である。そんなお国柄であるため、国内の津々浦々に至るまでトールス家が管理するべき神社が存在している。その都合上、トールス家には各地から多くの情報が集まってくる。それらは、災害などの国家レベルの情報から、隣のお爺さんが大物を釣り上げたという他人にとって取るに足らない噂話の類まで、玉石混交でまさに膨大である。
アンジュはそうしたトールス情報網で、後宮に関する情報を様々に集めていた。
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