第一話:後宮東郭(1)
女神大陸の西方にある一国。
霊峰天支柱を国内に持つ、西の柱成る国。
国王を国家のトップに頂くこの国では、今、千人に及ぶ未婚の娘が王城の後宮に呼び集められていた。
目的は断絶の危機に瀕している王家の血を絶えさせないためである。
この国では上から、公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵、という貴族身分が有るのだが。
公爵は国王を除く成人した王家の、カンリッツァ家の人間に与えられる爵位であり、いわばカンリッツァ公爵家一つしかない。
侯爵家は、興国のおりに王家を支えたと言われる十二家が、国史の始まりから脈々と続き、一切増減していない。
伯爵家は、国が勃興するおりに功の有った家が多く、そのほとんどは各地を治めていた豪族が元だ。国の拡大、希に縮小に伴って増減していたりもしたが、ここ五百年は八十程の家数を維持している。
子爵家は、伯爵家同様に元豪族がそのほとんどであるが、勃興のおりに抵抗し下ったという経緯が多い。こちらも国史の内に増減があったが、だいたい九十程の家数だ。
男爵家は、国が安定期に入った後で、商売や学問等で功績を立てた家に与えられることになった爵位である。商家であれば傾くと剥奪されたり、学問の大家であっても不祥事一つで剥奪されたり、比較的容易に与奪される爵位である。その経緯もあって、その増減は激しく、現在は百五十の家がその爵位を持っている。
貴族の家の総数だけでおよそ三百三十家、一つの家から三人の娘を後宮に入れたとしてようやく千に近付く。だが、当然のことながら全ての貴族の家に三人以上の未婚の娘が居るとは限らない。大半の貴族は、結婚というものは家と家のものと考え、産まれてすぐ婚約関係を結ぶこともある。本家分家、嫡流傍流に拘らず一族を見回しても未婚の娘を三人後宮へというのは不可能な現実なのだ。
では、後宮に集められた千人の未婚の娘は何処から現れたのか。
答えは単純で、半数以上は平民の娘なのだ。容姿に優れ、最低限度の読み書きが出来る者ならば、身分を問わず集められているという訳だ。
西の柱成る国は建国から約二千五百年、その中で王家に嫁ぐのは子爵以上の貴族身分を持つ者に限られていた。今から七百年前の三代に渡る一時期を除いて。
そして、今、その一時期が再現されようとしている。
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