アニに任せていいのだろうか
nionea
第一幕:父の依頼
プロローグ
「は?」
アニ・カント・フィフィールズは、眠そうなと表現されるデフォルト顔の半眼を珍しく見開いて父を見つめた。
一方の父、ガルス・マキベル・フィフィールズはその半眼ゆえに普段はあまり認識されないが、亡き妻によく似た愛らしい顔で見つめられて、こんな時じゃなかったらなと切なくなる。
「まぁ、お前ももう知ってると思うが、ややこしい事態になっていてね。対策としてある程度の家で、未婚、この場合は許嫁を持たないと言った方が良いか、まぁ、そうした娘のいる家は皆後宮に入れることになったのだよ」
「ちょっと何言ってるのか解らないですね」
一時の驚きが過ぎると、普段の、というより不機嫌そうな半眼になってアニは父を睨んだ。
だが父は、娘に睨まれることなど一日一緒にいれば何度かあることでしかない。にっこりと微笑んでそのリアクションを一顧だにしない。
「もう一度説明しようか?」
「いやいらないけど。説明とか無用だっていう話だから。私に許嫁がいないのは結婚する気がないからなの解ってるよね? それがなんで後宮に入るとかいう話になるの? うちの娘は病気だとか憑者だとか尼になるとかどうとでも言えば良いでしょ。回避してよ。なんですんなり受け入れてるの? 父親として最大限娘の幸せを願って対応するべきじゃない?」
「娘の幸せを最大限考慮したら妙な噂になるようなことは言えないよ」
「そういう正論はいらない。私の望む結果を下さい」
「ごめんねアニお父さんには十分な準備をして君を後宮に送り出すこと以外できることがないんだ」
困った顔で笑う父の姿に、自分の主張が通らないことを悟る。いや、最初に言われた段階で悟ってはいたのだが、あまりに得心し難い内容だったので愚痴愚痴と文句を言いたくなったのだ。
「………どうあっても回避不可能なのね」
「申し訳ない」
「良いです。私が無理をして断ればお姉様に話がいくんでしょ。そんなことになるくらいなら私が行きます。どうせ八割以上は何事もなく戻れるんでしょう?」
「そうだね。アニは可愛いけど十中八九陛下の好みじゃないからね」
「まかり間違っても目をつけられたくないので必要知識として聞いておきます。陛下の好みとは具体的に?」
「そう言うと思って傾向と対策はまとめておいたよ」
分厚い雑記帳を渡され、ぱらぱらとめくって頷く。
「お父様のこういう一切家の利益を生まない部分で発揮される有能さ結構好きですよ」
「そう言ってくれるのアニだけだよ」
はははと笑った後真面目な顔で娘の肩を抱く。
「だから、早く戻ってきてね。お父さんは待ってるよ」
「まぁ能う限り疾く速やかに帰還しますよ」
囲いこまれ、他人の手を介さなくては自分の食事もできない後宮、しかも今代の陛下のために前時代的なまでに膨れ上がることになった後宮になど、好んで長居したいものではない。
アニはげんなりとした気持ちで、だが家のためだと覚悟して、後宮へ上がることを受け入れる。
まさかの後宮入りが明日に迫っているとは、この時はまだ知らなかったのだ。知っていたら小一時間は父に文句を言い続けていただろう。まぁ、期間があったらあったで毎日文句を言い続けただろうから、それを見越してギリギリに告げられたのだろうが。
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