第1話「ただの繋ぎ役なんだけどね」
クラス順位でいうと、ど真ん中よりちょっと上くらいの順位を常に叩き出している私。だからガリ勉のイメージはついてないし、妹には総合点で結構差をつけているので姉の威厳は保てている。
そんな可もなく不可もない帰宅部の私は、夏休みの特別授業回避のために教室に残って再試験に向けての勉強をしている妹を置いていざ自宅へ。って、暢気に流行の恋メロを鼻で歌いながら正門を抜けようとしたら……居たんだよ、サトシがまたまた。
「ごめん、諦めきれないみたいで」
ほう、やるじゃん。そういうの私嫌いじゃない。以前の件で妹に初彼が出来る可能性を自らクラッシュしてしまって以来、甘いもの以外は受け付けない程度に悩んでいたから丁度良かったっちゃあ丁度良かった。
欲を言えば私に彼氏が出来た後ならタイミング完璧だったんだけどね。
「後、40分くらい待てば伊織もここ通るはずだよ」
「えっと、妹さんを待ってても仕方がないから」
スマホゲームのスタミナ20%回復する時間くらい待てないのか。陸上部のエースだけあって
「んー、なら伊織のLINEの連絡先でも教えたげよっか?」
あれ? 自分以外のLINEの連絡先って他人にどうやって教えるんだっけ。
「いや……前も言ったけど、俺が妹さんと直接LINEしたいわけじゃない」
直でやり取りするのも無理なの? 草食系にも程があるってもんよ。アスリートなんだからちゃんと肉も食べて欲しい。って思ってたらサトシがなんか2枚の紙きれをポケットから取り出して、その内の一枚を私につきつけてきた。
おっと、割と勇者じゃん。草ばっかり食べてたわけじゃないんだね。
「オッケーオッケー、これを伊織に渡しておけば良いのね」
これだと行くか行かないかの判断は妹に任せられるから、私的には楽だ。
「違う、違う。今、俺はキミを誘ってるんだ」
それは慎重過ぎやしない? 慎重な勇者過ぎやしないかな? 女神もおこだよ。まあ将より先に馬を射たい気持ちはわからんでもないし、なにより私が見たかったヤツだその映画。
「タピオカをパシッちゃっただけでもゴメンなのに、映画まで連れてってくんなくても別にちゃんと応援するからさ、私」
映画も見たいけれども。
「よくわからないんだけど、明日の午後12時に駅前で待ってる。用事とかあったら諦めるよ、部活休みなの明日くらいしかないから。……じゃあ」
あっ、サトシ行っちゃった。やっぱアイツ足が速い、流石は陸上部エースだね。私は明日用事が無いから別に良いんだけど。いや、正確には用事はあったんだけどクラスメートの美琴が私と遊ぶ予定と美琴パパとの予定を被らせちゃって、んであのファザコンはパパを優先しやがった。
だから明日駅前には行くし、映画も見るし。相手は妹の想い人? じゃなくて妹を想う人? んー、いいや、私は所詮ただの馬なんだしね。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
学校が休みな翌日、確か待ち合わせが12時だったんでお昼を早めに食べて……って、ご飯食べちゃっていいのかなあ。まあいいや、サトシが食べてなかったら小食のフリして軽めに付き合おう。
それで小洒落た服に着替えたら、珍しく競馬に行かなかった父がえらいこと絡んで来やがった。
「ゆっ、優香! お前、そんな恰好してひょっとして、お、男でも出来たのか!逢引きか!」
その声量と同レベルで顔が五月蠅いんだけど。それにきょうび逢引きなんてお爺ちゃんでも使わないよ。
「あ、お姉ちゃんデートなの?いいなぁ、いいなぁ」
妹も父を煽るようなことを言わんで欲しい。そもそも
「あら優香……頑張んなさいね♡」
勘違いなのは3人ともなんだけど、母くらいのリアクションが一番心地良い。なんか玄関で3千円もくれたし。ちなみに伊織もなぜか千円くれた。おおっ、財布の中身が5千円から一気に9千円に増えてしまった。サトシに映画代1900円渡してもお札が7枚も余るじゃん。
「優香! お前本当に行くのか!? 行っちゃうのか? ちょっとでも門限に遅れたら5分おきに電話するからなっ」
父ウザい。それにウチに門限なんてシステムは導入されていないよね。まあ美琴
そして私は徒歩10分のところを13分くらいに微調整して12時ちょうどに駅に着いたんだけれど、どうもサトシらしき人影が見当たらない。おかしいな、私の学校からしても近くの駅と言えばこの西駅に違いないのに。
サトシ的に駅は東駅とかだったら最悪かも。今からじゃチャリでも一時間はかかる。マズった、連絡先とか全然知らないんだけど。
これの裏にでもなんかのアドレス書いてないかなあ……なんて貰った映画のチケットをピラピラしてたら遠くからサトシがもの凄い勢いで猛ダッシュしてくるじゃない。アレは凄い。もう陸上の大会の県予選くらいの勢いだ。
しかも服とかズボンとかえらいビッショビショなんだけどっ! いやいやいやいや、走ったくらいでそんだけ汗って出るん? 普通。サトシが走って来たアスファルトに水滴アートが描かれている。
「すまないっ、待たせてしまった」
待ったことに関しては全然なんだけど、それよりもサトシの下ちょっとした水溜まりが出来てるよ。
「どしたん? そんなに濡れちゃって。とりあえず顔と頭くらい拭いときなよ」
女子オンリーのウチのクラスに放り込めば、大半の奴から絡まれるくらいのちょいイケなフェイスなんだからさ。愛想が無さげなところも女子高ウケしそう。
そんなことよりも、えっと、タオル……ハンドタオル持ってきてたよね? あった、この猫のやつ、伊織のんだったけどまあいいや。どうぞ。吸収性能が追っつきそうにないけれども。
「いや、汚してしまうから……」
「もうっ、そんなのいちいち気にしてたらタオルの存在意義が無くなっちゃうじゃん」
私ってこういうもどかしいのイライラするタイプなんで、自分からサトシの顏に押し付ける。もう汚れちゃったんだし、頭もちゃんと拭きなよね。
「本当にすまないな、ちゃんと洗って返すから」
洗え洗え、都合よくそれ妹のだから伊織に返すっていう口実が出来たじゃんね。そんな風に、あら私ってば意外と策士? と自画自賛してたら気合的にはサトシと同レベルな勢いでお母さんらしき人と服が濡れた子供がこちらに迫って来てるんだけど。何だこれ?お母さんそんなに手を引っ張っちゃ、子供さんの手が千切れちゃうよ。
サトシとその親子が接触するまではムード的に修羅場かな? なんて勘繰っちゃったりもしたけれど、母親の方は子供さんの頭を手でぐいぐい押しながらひたすら謝り倒している。
それでお礼がどうのこうの言ってて、サトシがガン拒否すると諦めて申しわけなさそうに去っていった。
「えっと、何あれ?」
「ここに来る途中にさっきの子供がちょうど川に落ちる瞬間に出くわして……それで助けた」
何だそれ!?
平然と言ってのけるサトシが凄かった。ってか、陸上のエースの上に溺れた子供を助けられるくらい泳げるなんて水陸両用かよ。
伊織も泳げないからこりゃ水系デートも問題ないね、って安心したよ姉はね。
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