174話 チラつく光


 義清は自分が何が気になったのかわからなかった。

目の端で何かがチラリと光った様に感じ、それに目をやっただけだ。

最初は食器か何かに光が反射したのだろうくらいに考え、気にもとめなかった。


 しかし、けれどもそれは時々チラチラと目の端に映る。

いい加減うっとうしくなった義清は、光の出どころはどこかと辺りを見回した。


 しばらく辺りを見回すと光は晩餐会場が行われている大広間ではなく、外からチラついていることがわかった。


 義清はそれに気づくと、ひどい胸騒ぎに襲われた。

彼は大広間を横断してテラスへと出ると闇夜を注視した。


 王宮がある城の下は城下町で所々に灯りが灯っている。

その灯りが城から遠のくにつれて少なくなっていく。

城下町の端になるほど家屋が少なくなるので灯りもなくなるせいだ。


 そして、城下町が終わると完全な闇が広がっている。

家屋が完全になくなり森と草原、丘陵があるだけの火を使う人間のいない土地が続く。


 チラつく光はそんな土地にあった。

何もない草原、正確にはその草原にはいくつか明かりがともっている。

光はそんな明かりを押しのけるようにして、盛んにチラついている。


 どうやら義清が気づいていなかっただけで、光はずいぶん前からチラついていたようだ。

一定の時間間隔を置いていくつかの光がチラついている。

きらりきらりと光がいくつかチラついたかと思うと、数十秒置いてまたチラつく。


 義清は我が目を疑いたくなった。

そこへ背後からアルターが声をかけてきた。


「おや、大殿はご存知でしたか」


「いや、ワシは何も知らんぞ。今しがた気づいたのだ。いったい駐屯地で何が起こっている?」


 先程城下町が終わると何もないと書いたが正確にはそれは違う。

城下町が終わると草原がある。

その草原で火を炊くもの者など普通はいないが今は違う。


 大禍国の駐屯地があるからだ。

大禍国は1万もの大兵を率いて都上りしている。

全ての兵を王宮に入れるわけにはいかない。

そこで、義清たちは自分の直臣の配下だけを率いて王宮に登っている。


 義清、ラインハルト、ゼノビアがそれぞれ数百程度の兵で王宮に登っているのだ。

残りの大部分である数千の兵は駐屯地で待機しているというわけだ。


 もっとも、爵位も持っていない領主が数百も、それも領主の家臣までもが兵を率いて王宮に入ること事態が非常識ではある。


 しかし、それを止めさせられないのが王宮の権威低下を表し、体を張って止める者がいないのもラビンス王国の人材不足を表しているといえよう。


 余談があったが、とにかく大禍国の大部分の兵が駐屯地にいるのだ。

その駐屯地で焚かれ篝火の光に混じって、光がいくつもチラついている。


「アルター、あれは暴筒を斉射したときの光だろう。いったい駐屯地で何が起こっている。馬鹿騒ぎはもうたくさんだぞ!!」


義清はアルターに願うように言った。

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