130話 ご褒美
「あれ、なんでそうなったんだ?」
アルターがカーテンの外を覗いて不思議そうに言った。
「ど、どうなりました?次の入場者は名簿に名前がないので、私には名前がさっぱりで‥‥」
マシューが喉をカラカラにしながらアルターに聞く。
「いやいや申し訳ない。やはりここに来てよかった。次の入場者は‥‥」
マシューはアルターから名前を聞く覚悟を決めて声を張り上げる。
「続きましたは‥‥同国魔導探求者にして生物博愛会会長、ベアトリス様ぁー!!」
この声に思わずラインハルトとゼノビアは顔を見合わせ、急いで控えの間を飛び出した。
すると、入場直前のベアトリスが勝ち誇るかのようにして、王の間の入り口に仁王立ちしていた。ベアトリスは勢いよくピースサインをすると、身をひるがえして王の間へと入場していった。
エカテリーナが入場しても次の入場者が決まらないことにうんざりした義清は、ベアトリスにそっと耳打ちして入場順を繰り上げ、入場順を4番手から2番手にしたのだ。ラインハルトとゼノビアは控えの間を全体に響くほどの大声でジャンケンをやっていたので、ベアトリスがこっそり控えの間から出ていくのに気づかなかったのだ。
「ということでラインハルトが3番手、ゼノビアはが最後の4番手だ」
控えの間から義清がラインハルトとゼノビアに言った。
「え!?なんでアタシが最後なんですか?」
「クソっ、まあ最後よりはましか」
二人はそれぞれの反応をみせる。
「ラインハルトは王の間の前で待機していろ。ゼノビアは扉を締めてこっちへ」
「そういうことだゼノビア、俺は先に失礼するぞ」
「チェッ、とんだ貧乏くじだよ」
ラインハルト意気揚々と王の間へと向かった。
カーテンからアルターが声をかける。
「これはラインハルト様、ここにいるということはゼノビア様は負けましたか」
「いや、大殿のおかげで俺が3番手になれた。それよりアルター、お前ベアトリスが2番手になったとわかったなら一言声をかけてくれてもいいものを」
「ハハハ、私は中立ですので、例えゼノビア様でも声はかけませんでしたぞ」
「まあ、それなら良いが、それにしてもゼノビアは不運だったな」
その頃ゼノビアは顔を赤くしてカチコチになっていた。
ゼノビアがいるのは義清の膝の上、ちょうど先程のベアトリスと同じように義清の上に座っている。
「‥‥大殿これは‥‥」
ゼノビアが恥ずかしそうに義清に聞く。
「先程エカテリーナ程ではないとはいえ、羨ましそうにこっちを見ていただろう。最後の入場者になった者のちょっとしたご褒美だ。自分の入場までこうしておれ」
ゼノビアは少し恥ずかしくなりながらも、思わぬご褒美に子供に戻ったようで嬉しかった。
「へへへ、アタシ知ってるだ大殿」
「何をだ?」
「大殿の国の言葉でこういうのを、余り物には福があるって言うんでしょ?」
「ハハッ、そのとうりだ」
ゼノビアはゆっくりと義清の胸に背を預けると、自分の入場がいつまでも呼ばれなければいいのにと思った。
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