129話 入場
マシューは肩で息をしながら、次に王の間に入ってくる人物の名簿を見ている。
冷や汗が止まらない。それは決して、なぜかこの期に及んでも次の次に王の広間に入ってくる人物の名が名簿に書かれていないせいではなかった。
マシューがいるのは王の間の入り口近くだ。
貴族が入る部屋に下々の者は存在は不要だが、雑務をやるのは使用人なのでカーテン内で待機する。彼ら使用人は貴族にとって動く家具に過ぎないのだ。
既にほぼ全ての貴族の入場は終わっている。
今回の封土祭は東方大遠征に参加したほぼ全ての貴族が参加しているとあって、呼び声を上げる回数も多い。既に200を超える呼び声をマシューは上げている。残る貴族は1国だけだ。
「いやあ、お待たせして申し訳ない」
冷や汗を拭うマシューの後ろからアルターが笑顔で声をかけてきた。
「どうにも次の次に入る人が決まりませんでな。
この老ヴァラヴォルフに声をかけられたせいで、とんでもない事に巻き込まれてしまったとマシューは思わず顔を歪めた。マシューの心の内を見透かしたのかアルターの顔から笑顔が消えた。ドスの効いた声で言う。
「ゆめゆめお心変わりされぬよう。直前になって
それからアルターは先程の顔が嘘であるかのように笑顔に戻ると言った。
「なあに、褒美の事なら心配なさらぬよう。渡した前金より多いゆえ心配は無用。そうだ、首尾よく事が運べば色もつけましょうぞ」
マシューは覚悟を決めて声を張り上げた。
「続いて入場されるは‥‥
途端に王の間がざわついた。
そのざわつきをかき消すように、王の間の扉が勢いよく開かれるとエカテリーナが入場してくる。脇に黒母衣衆を従えている。
義清はうんざりを通り越して呆れていた。
既にエカテリーナが王の間に入るため控室から出ていっている。それなのにラインハルトとゼノビアは、まだジャンケンのあいこを続けている。もはや時間がなかった。あの二人のジャンケンは永遠に続くだろう。
義清は膝の上に座るベアトリスに何事かささやいた。
するとベアトリスは目を輝かせる。義清は顔を前に人差し指を立ててシーと言うと、そっとベアトリスを控えの部屋から送り出した。
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