128話 じゃんけん


「あいこでしょっ!!あいこでしょっ!!あいこでしょっ!!」


 義清は部屋中に響き渡る数十回目のあいこの掛け声にうんざりしてため息を付きながら言う。


「どっちでもいいだろう。たかが入場順だ。2番だろうが3番だろうが会場には入るのだ。それほど重要なこととでもあるまいに」


これに対してゼノビアが反論する。


「そうはいきません。最初に入った者に注目がいくに決まっているのに、2番手ならまだしも3番手になるなどシャクにさわりますっ!!」


さらにラインハルトが同調する。


「そうですぞっ!!しかもその一番手は、不正をしての一番手での入場ときている。この上に3番手なんぞに甘んじられますかっ!!」


「不正の疑いがあるだけなら、不正とは呼べませんわ」


エカテリーナが長机の上に座って椅子に足を投げ出して、勝ち誇って紅茶を飲みながら行った。


「魔導ド素人同然の俺でもわかったんだぞっ!!あれが不正でなくてなんだと言うのだっ!!」


「オーホッホッホ、悔しかったら術式を出して証明して御覧なさい」


不正を糾弾するラインハルトにエカテリーナは更に勝ちをひけらかして煽っていく。


「そんなことより、ラインハルト時間がない。勝負だっ!!」


「おうよ、次こそ決着付けてやる」


 再び部屋中にゼノビアとラインハルトのじゃんけんのあいこの掛け声が響き渡る。

それを聞きながら義清はうんざりしながら紅茶に手を伸ばした。


 一同がいるのはラビンス王国が首都ロヴェーネにある王宮の一室だ。

この日王宮では封土祭が行われるため王国中の諸侯が王宮に集まっている。先の講話条約の通り、大禍国おおまがこくの属国化と領土安堵りょうどあんどのため義清達も封土祭に参加すべく王宮へとやってきた。


 社交界の色が強くなってしまった封土祭では王の間に入場する前の、大広間にいる段階から諸侯の談笑がはじまっている。社交界がメインとなるのは封土祭後の晩餐会だが大貴族に取り入りたい少貴族を中心に、大広間で王国中の貴族が口を動かしていた。


 義清達も当初は大広間に入ったがモンスターであるので爪弾きに合うし、別に誰と喋りたいわけでもないため、使用人に金を渡して空き部屋を用意させ入場までの時間をつぶすことにした。するとエカテリーナが入場の順番はどうするのかと話を出してきた。


 義清は大本命なので一番最後としてあとの4人すなわち、ラインハルト・エカテリーナ・ゼノビア・ベアトリスをどういう順番で入場させるのかというものである。これに対してエカテリーナはジャンケンで決めてはどうかと提案しみんなが了承した。


 問題はそのジャンケンでエカテリーナが不正を行った疑いがあることだ。

エカテリーナはジャンケンでみんながそれぞれの手を出す直前に魔導を発動し、ジャンケンはエカテリーナの勝利に終わった。これでエカテリーナは入場順1番となった。当然残りの3人は納得がいかないが、エカテリーナが魔導を用いた証拠はどこにもない。どうもエカテリーナは入場順を最初からジャンケンで決める腹でここにきて、かなり特殊な魔導を用いてジャンケンを行ったようだ。


 これを横で見ていた義清はあきれた。エカテリーナの使った魔導が、どう見てもそんなくだらないことに使うような高等魔導ではなかったからだ。


 残った3人はまたジャンケンを行うがベアトリスは早々に敗退。入場順は4番手に決まった。

残るはラインハルトとゼノビアとなり入場順の2番手を争っている。この2人は反射神経に物を言わせて相手が手を出す直前に自分の手を変えている。それでいつまでもあいこが続いているのだ。


 実はエカテリーナはこの2人が種族的にも自分より反射神経がいいことを知っていた。

以前にもそれが原因で勝負に負けている。やたらジャンケンで2人に負けることを不思議に思ったエカテリーはふとある時そのことをヴァラヴォルフ族の戦士の1人に話した。すると戦士は種族的にエカテリーナが2人に勝つことは不可能だと言い、両種族の子供でもエカテリーナに勝つことができると語った。エカテリーナは2人にいいカモにされていたのだ。


 それでエカテリーナはどうやったのか今度は必勝の魔導をあらかじめ編み出し、それを使って3人のジャンケンの手を操作して勝ったのだ。


 この一連の事で唯一人の被害者と言えるのはベアトリスだろう。

彼女は何も知らないまま純粋な気持ちでジャンケンにのぞみ負けてしまった。エカテリーナからゼノビアとラインハルトが反射神経に優れているということを、ジャンケンに負けてはじめて聞かされた。彼女は椅子に座ってべそをかいている。


 これをかわいそうに思った義清がベアトリスを呼び寄せ、自分の膝の上に座らせると頭をなでて慰めた。ベアトリスは満更でもない表情で喜んでいる。それを横からエカテリーナが嫉妬に狂いながら羨ましそうに見ている。


 やがて使用人がそろそろ王の間への入場が始まると知らせに来た。

 部屋には相変わらずあいこの掛け声が響いている。

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