126話 結束


 ラビンス王国の首都ロヴェーネは王国中央やや東寄りにある。

首都で目を引くのはなんと言って王宮だ。大地から生える巨大な巨人像の頭部の上に築かれた、城を兼ねた王宮は城下町より高い場所にある。城1つが丸々巨像の頭部に収まっていることからその巨大さがうかがえる。


 王宮の真下にある巨人像の頭部は旧世界滅亡の名残だ。今は頭部のみが地上に露出し、像の大半が地中にある。この巨像が旧世界滅亡の時に一部の人々を乗せてこの地までたどり着いた。王国はこのたどり着いた人々の末裔がつくった国である。かつて、この巨像が旧世界滅亡に関係したことや王国建設に随分尽力したことを知る人はもういない。


 王国ではそれぞれの領主に対してこれからも領土を安堵するという、封土祭に義清を招いて大禍国おおまがこくの正式な属国化とすることとしていた。この祭りは定期開催というわけではなく大きな戦いや災害が起こった際に開かれる。そして戦いや災害復興で目覚ましい働きをした領主に褒美や新たな領土を与える祭りなのだ。当初は大きな働きをした領主だけが呼ばれていたが、その領主と関係を持ちたい領主が都上りすることから社交界の意味を持つようになる。今では王国の大小様々な領主が集まる一大社交界のイベントとなってしまった。


 大禍国は他の中堅以上の貴族と同じ様に、ロヴェーネに屋敷を建てることが決まっている。王国の前王であるデゴルイス3世、4世時代に中央集権化を図ったこともあり、ある程度大きくなった貴族は首都に屋敷を持ち常駐する決まりとなっている。現王であるデゴルイス5世の権威が衰えたとはいえ、今でも多くの貴族が首都に屋敷を持っている。


 大禍国が封土祭に先立ち1ヶ月後にも前から都上りしたのは、この屋敷建設の下準備も兼ねてのためだった。


 大禍国おおまがこくはロヴェーネに兵1万を率いて都上みやこのぼりしてきた。王国は首都に大兵力が入ることを嫌ったが、先に結んだ講話条約を盾に大禍国は頑として譲らなかった。大禍国としてはこの世界に転移してくる前の人間との争いの記憶が残っており、数百の兵では義清の暗殺を防ぎきれないと判断したのだ。王国がその気になれば首都にこっそり諸侯の兵を伏せ、四方から寄ってたかって義清を攻め立てることもできる。彼らはそう考えたのだ。


 兵1万の内訳はヴァラヴォルフ族、ボア族、黒母衣衆が各2000、そして特筆すべきは大主教がガシャ髑髏とスケルトン混合の4000もの兵を率いて参陣してきたことである。


 実は大禍国では不戦派と好戦派で対立した際の、しこりがまだ残っていた。両派閥が城内で起こった際に大主教はガシャ髑髏を率いて義清の周りを固めた。まるで義清の親衛隊かの様に振る舞い、片時も義清の側を離れなかった。


 当然ではあるが黒母衣衆はこの動きに反発する。彼らからすれば義清の親衛隊は自分達であり、その為に彼らは義清を主としているのだ。しかし、黒母衣衆内部でも不戦派と好戦派が生まれ始めており、義清の護衛に専念できなくなりつつあった。両派閥が完全に生まれてしまえば各派閥はお互いを信用しなくなり、信用しない派閥が義清の護衛に付くことを良しとはしないだろう。


 この考えに至ったのかそれとも肌で感じたのか、はたまた気まぐれかは不明だが、大主教は中立性を確保するためにも無断で義清の護衛に付いたのだ。都上りの際に大主教の率いる兵が多かったのも、このしこりが完全には取れていないことの表れだった。


 当然だが、多数のモンスターが首都に入ったことで争いは起きている。

特に外見が悪いスケルトンは悪目立ちして、事あるごとに衛兵や冒険者と対立した。特に冒険者はスケルトンを侮ってみる傾向にある。スケルトンは単体では弱いが集団でいるので厄介とされている。そのため街中を3、4人のスケルトンで歩いていると冒険者にカラマれる自体が頻発した。彼ら冒険者からすれば一歩街を出れば敵対している野生のスケルトンと同じ見た目をしている、大禍国のスケルトンが堂々と街を歩いていることが気に入らない。それほど強くないとはいえ誰しも駆け出しの冒険者の頃はスケルトンに苦戦するし、ひどいときには命を落とす者もいる。ダンジョンであれば蘇生もできるが街道などで倒れれば、あとは運次第だ。自分もしくは仲間が命を落とした仇が街を歩くのを気に食わない彼らの言い分にも一理ある。


 この事に目を付けたのがヴァラヴォルフ、ボア族だ。

彼らはスケルトンやガシャ髑髏と手を組み小銭稼ぎを始めた。

 まず、少数のスケルトンにわざと路地裏を歩かせる。治安の悪い地区なら表通りでもいい。そしてスケルトンが冒険者の集団にカラマれると、後ろからヴァラヴォルフ族とボア族それにガシャ髑髏の集団が登場する。3種族はスケルトンを助けるという大義名分の元に冒険者を叩きのめす。あとは冒険者の身ぐるみを剥いで、それらを叩き売るのだ。


 悪質極まりない稼ぎ方だが、彼らは退屈しのぎと言わんばかりにこれらを好んで行った。

当然、王国ではこれらのことで大禍国に苦情を申し立てたが、最初に手を出しているのは冒険者なので王国も強くは出れない。結局は冒険者も大禍国の兵も両者を尊重し争わない様に、という曖昧な御触れが出るだけで終わった。


 しかし、悪知恵が働く者はどの世界にもいるもので、御触れにより一旦は収まった一連の冒険者狩りも再熱する。ロヴェーネ近郊にあるダンジョンの入口近くでスケルトンが目撃された。ダンジョンからモンスターが溢れ出ることは珍しくない。それを防ぐためにもダンジョンの探索が行われるのだ。そのため探索が行われているダンジョンから溢れ出るモンスターは浅層のモンスターであることが多い。深層のモンスターが溢れ出るには手つかずのダンジョンである必要があるのだ。


 スケルトンを目撃した冒険者も、そうしたダンジョンから溢れ出たモンスターだと思い、スケルトンを攻撃した。もう想像できたと思うが、これは大禍国のスケルトンだった。あとはお決まりのパターンで後ろからヴァラヴォルフ族、ボア族とガシャ髑髏の3者が登場する。哀れな冒険者は裸で地面に横たわるのだ。おかげでロヴェーネ近郊のダンジョン付近では誰もスケルトンを攻撃しなくなり、街道を行く者や村に被害が出て初めて冒険者が討伐に乗りだすという有様となった。


 冒険者にとっては皮肉なことだが、この冒険者狩りでスケルトンを含む4種族は結束を強めた。先の戦いで生じた派閥争いからくる対立や、黒母衣衆とガシャ髑髏・スケルトンの対立も解消することとなる。逆に言えば4種族の対立が解消するほど、大禍国の人間の大部分がこの冒険者狩りに1度は参加していたのだ。

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